飛翔

日々の随想です

書評

『打たれ強く生きる』

「気骨の人」作家の城山三郎さん没後17年が経った。 一橋大学在学中に、名古屋市内の図書館で見初めた人が奥様の容子さんだった。 初対面の印象を「天から妖精が落ちてきた感じ」と言う。 愛妻をがんで亡くした後、綴った『そうか、もう君はいないのか』に…

『沈黙』遠藤周作著 を読んで

沈黙 (新潮文庫)遠藤 周作新潮社 裏表紙の紹介文から引用すると、本書は:島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制のあくまで厳しい日本に潜入したポルトガル司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して…

『私とは何か 「個人」から「分人」へ』平野啓一郎著

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)作者: 平野啓一郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/09/14メディア: 新書購入: 19人 クリック: 299回この商品を含むブログ (86件) を見る まずはじめに私事になるが、友人が私のブログや書いた文章を…

『昔日の客』を読んで

昔日の客関口 良雄夏葉社 『昔日の客』は東京大森の古本屋の店主関口良雄氏による遺稿集の復刻版である。 多くの小説家(尾崎士郎、尾崎一雄、上林暁、野呂邦暢など)や文人たちに愛されたこの古本屋「山王書房」。 店主の関口氏の古本への愛情や作家たちと…

北越雪譜

日本列島を大変な寒気団が覆い尽くしているようで雪・雪・雪。 各地で雪の事故や災害がニュースに飛び込んでくる。 多くの被害者が出たのをニュースで見て自然の脅威にあらためて考えさせられたのだった。 雪害や雪崩の事故は今に始まったことではない。その…

『スノーグース』

表題にある「スノーグース」を含めた3篇(「スノーグース」「小さな奇蹟」「ルドミーラ」)を収めたギャリコの珠玉の作品。 「スノーグース」は第二次大戦が勃発した時代、ドイツ軍の猛進撃によって「ダンケルクの悲劇」が起こった陰のエピソードを踏まえた…

さすらいのジェニー

さすらいのジェニーポール・ギャリコ大和書房 事故で意識を失った少年ピーターは気が付くと猫になった。 そんなノラ猫になったピーターは、町で負傷した身を一匹のメス猫に助けられる。 それがジェニーだ。ほっそりとしためすの虎猫で、顔とのどに一部分白い…

紅い花 他四篇 (岩波文庫)

紅い花 他四篇 (岩波文庫)ガルシン岩波書店 薄い本の中に5編の短編が編まれた本書は著者ガルシンの全世界がある。 それは道徳心、良心、信念のありかを伝えたものだ。 「あかい花」「四日間」「信号」「夢物語」「アッタレーア・プリンケプス」の5編。 「信…

女二人のニューギニア

女二人のニューギニア (朝日文庫)作者: 有吉佐和子出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 1985/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る 蒸し暑いこの季節、おもいっきり笑いとばせる本で暑気払いをしよう。 今は亡き有吉佐…

『少年少女のための文学全集があったころ』

少年少女のための文学全集があったころ作者:由利子, 松村発売日: 2016/07/26メディア: 単行本 子供時代に読んだ本は懐かしく、本の手触りまで覚えている。 そんな懐かしくも愛おしい子どもの頃読んだ本についてのエッセイが本書である。 ページを開くと、懐…

着古した服

[あんつるさん]こと「安藤鶴夫」の名随筆をしみじみと読むことが出来た。歳月 (講談社文芸文庫)作者:安藤 鶴夫発売日: 2003/02/10メディア: 文庫 小説は作り物であるが、随筆は書き手の実際にあったことや、思うことなどを随意に書くものなので作者の体温が…

読了本

2月読んだ短編: 『おーい でてこい』星新一著(講談社)、『男どき 女どき』向田邦子著(新潮文庫) 『ナポレオン狂』阿刀田高著(講談社文庫)『地下水路の夜』阿刀田高著(新潮社)、『密会』ウイリアム・トレヴァー著(クレストブックス)『聖母の贈り物…

追悼 鶴見俊輔

日本の近代化を鋭く論じ、戦後を代表する評論家で、哲学者としても知られる鶴見俊輔さんが亡くなりました。93歳でした。 鶴見さんは、政治家で文化人だった鶴見祐輔の長男として東京で生まれ、15歳でアメリカに渡って、ハーバード大学に入りましたが、日…

『きの音』宮尾登美子著

きのね(上) (新潮文庫)作者:登美子, 宮尾新潮社Amazonきのね(下) (新潮文庫)作者:登美子, 宮尾新潮社Amazonこの本は十一代市川團十郎をモデルにした長編小説である。 歌舞伎の世界でも一世を風靡した天下の美男、不世出の役者「海老サマ」がモデルである…

『耳ふたひら』松村由利子著を読んで

耳ふたひら (現代歌人シリーズ)作者:松村 由利子書肆侃侃房Amazon 歌人であり、元全国紙の新聞記者であった松村由利子さんが長年住み慣れた千葉県から沖縄、石垣島へ移住した。 第四歌集『耳ふたひら』(書肆侃侃房)を上梓されたというので拝読した。 第一…

『子育てをうたう』松村由利子著

子育てをうたう (福音館の単行本)作者:松村 由利子株式会社 福音館書店Amazon核家族や、シングルマザーが多くなった昨今、子育てでとまどい、悩みを抱えても相談する人がない状態が続いている。 本書は子育ての中から生まれた様々な短歌、妊娠した時のまだ見…

『蜘蛛の糸』

[asin:4101025037:detail] 芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を再読した。 蓮の池をブラブラとあるいていたお釈迦様は、蓮の花の下にある地獄の底をご覧になった。 そこには、人殺しをしたり、放火したり、悪事を働いたカンダタという大泥棒が目に入った。 彼にはた…

『書斎の鍵』を読んで

書斎の鍵 (父が遺した「人生の奇跡」)作者:喜多川 泰現代書林Amazon書斎の鍵 (父が遺した「人生の奇跡」)喜多川 泰現代書林 わずか半日で読了した本である。 読みやすさと、内容の濃さと、おもしろさにぐいぐい引き込まれた。 事故で右手に障害が残ったサラ…

追悼 阿川弘之氏を悼んで

太平洋戦争を舞台に人々の苦悩や悲哀を描いた作家で、文化勲章受章者の阿川弘之さんが2015年東京都内の病院で亡くなりました。94歳でした。 阿川さんは大正9年に広島市で生まれ、東京帝国大学文学部を卒業したあと、予備学生として海軍に入り中国戦線に赴…

『雪と珊瑚と』を読んで

雪と珊瑚と作者:梨木 香歩角川書店(角川グループパブリッシング)Amazon 『雪と珊瑚と』は21歳のシングルマザーが赤ちゃんを抱えて仕事探しをするころから話は始まります。 「赤ちゃんおあずかりします」の張り紙の主で年配のくららという女性にであったのを…

『眼中の人』小島政二郎著

眼中の人 (1956年) (角川文庫)作者:小島 政二郎角川書店Amazon眼中の人 (1975年)小島 政二郎文京書房 小島政二郎による自伝的長編小説である。 芥川龍之介、菊池寛、鈴木三重吉などを中心に、大正文士の生態を生き生きと活写して、著者が作家として自分を確…

『子育てをうたう』

子育てをうたう (福音館の単行本)松村 由利子福音館書店 核家族や、シングルマザーが多くなった昨今、子育てでとまどい、悩みを抱えても相談する人がない状態が続いている。 本書は子育ての中から生まれた様々な短歌、妊娠した時のまだ見ぬ子への思い、泣き…

「CATWINGS」「空飛び猫」

Catwingsクリエーター情報なしScholastic Paperbacks猫好きはもちろんのこと、そうでない人にも、子供にも、大人にも楽しめる絵本です。 著者はSFファンタジー作家として知られているアーシュラ・K. ル・グウィンだと知ったのは読み終えてからです。 びっく…

縦横無尽の文章レッスン

芥川賞作家の村田喜代子氏は 「優れた文章を書くためには、言葉に対する感度を養わなければならない。さて、それには、書くことと、読むことと、どちらに比重を置けばよいか。がむしゃらに書いても、我流が身につくだけで、他人には通用しない。まず良い文章…

野呂邦暢の書き出し

書き出しの一行できまるという。 古い革張椅子 (1979年)野呂 邦暢集英社このアイテムの詳細を見る 野呂邦暢のエッセイは淡々と無駄のない言葉が紡がれていて、飄々とした書き味はモノクローム映像を見るようだ。 「書出し」という題のエッセイ: 文章には初…

フロイスの見た戦国日本

フロイスの見た戦国日本 (中公文庫)川崎 桃太中央公論新社 ヨーロッパの十五、六世紀は大航海時代と呼ばれ、富と領土獲得を求め発見の世紀であった。 そんな時代に日本もヨーロッパ人により発見された。しかし、それは領土獲得でなく、布教の情熱に燃える宣…

『小さな町にて』

小さな町にて (1982年)野呂 邦暢文芸春秋このアイテムの詳細を見る 日記風に叙した随筆。 はじめのほうの短いエッセイはそのまま短編小説の題材になりそうであるが、全編を流れるのは野呂が歩いて生きた青春の軌跡をなぞるものとなっている。 しかもそのほと…

深代惇郎の天声人語〈続〉 (1977年)

凝縮した言葉を紡ぐことは難しい。短歌や俳句などの短詩形でなく散文としての短い文のことである。 今でこそ中国のお抱え新聞になった感が強い朝日新聞ではあるが、かつては名物コラム「天声人語」があった。博覧強記の人、深代惇朗によってその名を高からし…

向井敏、百目鬼恭三郎に導かれて

今は亡き向井敏は書評と言うジャンルを小説や他の文芸作品と並ぶ位置にした書評家であり、評論家であった。今では素人からプロまでさまざまな人が書評を書くようになった。 書評家というとかつては<狐の書評>という覆面の書評家がいた。後年その素顔を明か…

文学は美味しいのだ!

久保田万太郎、白洲次郎、吉田健一、池波正太郎らが通ったそば処「よし田」で蕎麦を食べる。背中のリュックには古書店をはしごした釣果がずっしり。夜になれば 池波正太郎の『鬼平犯科帳』をもとに料理を作り、藤沢周平の作品に出てくる銘酒「九平次」を呑む…