飛翔

日々の随想です

2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『あんつる君の便箋』

映画やテレビなどでは、死の淵にある人に泣きすがるシーンが多い。私が母のなきがらに対面したときは、その死を受け止められずに呆然と立ち尽くしていただけだった。ある日、散歩していた林道で一輪の花をみたとき、突如として涙があふれてとまらなくなった…

夕暮れ

朝晩涼しくなって秋めいてきた今日この頃。 日が沈むのがはやくなってきて、さみしい夕暮れを感じる。 秋の夕暮れは特に人にさみしさやはかなさを感じさせるものがある。 昔の歌人たちもこの秋の夕暮れを歌ってきた。その中でも有名な歌三首を「三夕(さんせ…

『羽田浦地図』

羽田浦地図作者:小関 智弘メディア: 単行本 先日二十三年ぶりに遺稿集『昔日の客』が復刻された。限定され出版された遺稿集だけに特定の人だけに渡った本である。ゆえに復刻されて広く多くの人に読まれるようになったのは快挙ともいえる。 さて今日紹介する…

どっきり花嫁の記

どっきり花嫁の記作者: 与謝野道子出版社/メーカー: 角川(主婦の友)発売日: 1967/03/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る与謝野晶子の次男秀氏に嫁いだ道子が、結婚後から晶子の晩年までの約七年ほどの想い出を綴ったものである。 序として…

自分の羽根

自分の羽根 庄野潤三随筆集 (講談社文芸文庫)作者:庄野 潤三講談社Amazon 庄野潤三の『自分の羽根』(講談社文藝文庫) この解説は高橋英夫。タイトルにもなっている「自分の羽根」の随筆は奇しくも庄野潤三の作品への向かい方、何を書くか、どう書くかを象…

歌の源流をベトナム「花モン族」にみる

BSNHKハイビジョンで放映された「芽生えの春〜ベトナム花モン族の見合い祭り」をみた。 中国との国境近くのベトナム山岳少数民族である花モン族。険しい山にへばりつくように住む貧しい農村地帯がある。山のやせた土地にわずかの畑を耕して生計をたてている…

くず湯

世の中には老父母の介護生活をなさっている方が多い。私も新幹線の回数券を買って東京まで介護していた数年があった。費用も莫大で仕事をしながらの生活。金曜日の午後東京へ、月曜日には帰宅。帰宅するとすぐに仕事が夜9時まであった。新幹線に乗っている…

老木(おいき)の花―友枝喜久夫の能

老木(おいき)の花―友枝喜久夫の能作者:白州 正子求龍堂Amazon 大正から昭和の中頃へかけて多くの能の名人芸にふれた著者は、その名人たちの死とともにそれ以降の能に幻滅を感じ遠ざかってしまった。 それが友枝喜久夫(81歳)喜多流能の名人が演じた「江口」…

ラファエル前派と堺利彦『パンとペン』

ガブリエル・ロゼッテイとその周辺、ラファエル前派について書いてみたい。 Dante Gabriel Rossetti(1828〜1882)はロイヤル・アカデミー時代にラファエル前派を結成した。多くの女性との恋愛から霊感を得て「詩集」を出し、絵を描いた。クリステイーナ・ロ…

黒岩比佐子さんの体調のご快復を祈って

先日、東京神田で開かれた黒岩比佐子著『パンとペン』(講談社)出版記念講演会では大勢の聴衆がかもし出すやさしさが心に残った。黒岩さんの静かな口調の中に凛と心に期するものを秘めた講演は『パンとペン』に寄せた黒岩さんの渾身がうかがえて感動的だっ…

『いつか王子駅で』

いつか王子駅で作者:堀江 敏幸発売日: 2001/06/01メディア: 単行本 堀江のどの作品をとってもその「文学」の品格に酔わされる。 品格ある文の運び方、プロットの組み立て方の妙もさることながら、登場人物は下町の市井の人であったり、移民だったりと、登場…

『パンとペン』を読んで

パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い作者: 黒岩比佐子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/10/08メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 155回この商品を含むブログ (69件) を見る 日露戦争が始まる前、社会主義者の堺利彦が親友の幸徳秋水と共…

『四百字のデッサン』

2008年に書いたものの再掲載である。 「野見山暁治展」を愛知県美術館へ見に行った。 パンフレットによると: 『「野見山暁治」(1920年生まれ)の作品は現象の表面を追うのでなく、内部に深く切り込んで、そこに内在する生命を引き出そうとしています』とあ…

黒岩比佐子さんの『パンとペン』刊行記念講演会に出席して

今日は朝6時25分の東京行き長距離バスに乗って東京神田神保町、東京堂書店で開催される黒岩比佐子著『パンとペン 社会主義者・堺利彦の文才と「売文社」』刊行記念講演会に出かけた。 名古屋近郊から6時間あまりかけ東名を走り、無事東京駅へ到着。大手…

『パンとペン』来たる!

予約していた『パンとペン』黒岩比佐子著(講談社)がやっと本日送られてきた。 今日からこの一冊をじっくりと読もうと思う。黒岩さんが渾身をこめて書いたもの、一行一句ものがさず読もうと思う。

ピグマリオンと『パンとペン』

英国での思い出の一つにシェイクスピアがある。 パーティーで知り合った人に、囓りかけのシェイクスピアについての私見を堂々と口走ったことがあった。帰りがけに相手の素性を聞くと何と英文学の先生で元シェイクスピア役者と聞いて赤面するばかり。 親切に…

『以下無用のことながら』

以下、無用のことながら (文春文庫)作者: 司馬遼太郎出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2004/07/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (27件) を見る司馬遼太郎の膨大なエッセイから厳選した七十一篇。その中でも「学生時代の私の読…

寂光院(犬山)とマダム貞奴の貞照寺

今日は朝早く起きて名古屋の熱田神宮へ祈願しに出かけた。 熱田神宮は由緒ある神宮で三種の神器の一つである草薙剣(くさなぎのつるぎ。天叢雲剣)を神体としている。剣は壇ノ浦の戦いで遺失したとも神宮に保管されたままとも言われている。 相殿に天照大神…

紅茶入りのティーブレッド

紅茶入りのティーブレッドを焼いてみました。 これは濃い目に淹れた紅茶をレーズン(カレンツ)に注いで柔らかくふっくらさせたものを小麦粉とブラウンシュガー、卵と混ぜて150度のオーブンで1時間焼いたものです。 熱々のティーブレッドは一口味わうと紅茶…

『瞬間を永遠とするこころざし』

朝から雨だ。 こんな雨の日は読書に限る。岡井隆の『瞬間を永遠とするこころざし』を読んでいる。瞬間を永遠とするこころざし (私の履歴書)岡井 隆日本経済新聞出版社 岡井は著書の中でこういっている: アルチザン(職人)ということばがあり、アーティスト…

能楽における和歌

能「忠度」(ただのり)は世阿弥の作とされるもので、武将であると同時に歌人でもあった忠度(ただのり)の『千載集』(せんざいしゅう)についての執心と忠度(ただのり)最期(さいご)の有様を語る能である。これは修羅物とよばれるものであるけれど、修羅…

サンマのけむり

どの家も食卓から秋がやってくる。 サンマがじゅ〜じゅ〜焼ける様子はみるからにおいしそうだ。 このじゅ〜じゅ〜言っているサンマがお皿の上にのった瞬間食べないといけない。待ってましたとばかりにかぶりつくのだ。焼くものと食べるものがあうんの呼吸に…

女の戦いは怖い!

十月になって心地よい秋の日を満喫している。菊の花が美しい頃となった。 もうとっくに過ぎてしまったが九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。 陽(奇数)が重なる日そして、奇数の中でも一番大きな数字9が重なることから「重陽」といわれ、別名「重九(ちょ…

夜明けの空の茜色(あかねいろ)

女が女であると意識する時は薄物をはおるときではなかろうか。 肌がすけてみえる瞬間、えもいわれぬ美がかもしだされる。そしてそれを脱ぐときはさらになまめく。 そんな女のナルシズムを歌ったのは松平盟子である。ランジェリーすべりおちゆくたまゆらのう…

岡井隆の自伝的随想

瞬間を永遠とするこころざし (私の履歴書)岡井 隆日本経済新聞出版社歌人の歌への思い、その生きて道をさぐってみたい。読後の感想はまたあとで。

『昔日の客』と夏葉社

夏葉社から『昔日の客』を送ってもらい、そのお礼と振込みの報告をメールした。本の依頼に心よく応じてくれた上、迅速な配送と誠実なメールに感動した。こんな誠実なところだからこそ『昔日の客』の復刻となったのだとあらためて思った。拙いながら『昔日の…

野呂邦暢『小さな町にて』と昔日の客

小さな町にて (1982年)野呂 邦暢文芸春秋このアイテムの詳細を見る 日記風に叙した随筆。はじめのほうの短いエッセイはそのまま短編小説の題材になりそうであるが、全編を流れるのは野呂が歩いて生きた青春の軌跡をなぞるものとなっている。 しかもそのほと…

沢木耕太郎と「昔日の客」

バーボン・ストリート (新潮文庫)沢木 耕太郎新潮社このアイテムの詳細を見るカバーデザインが平野甲賀、装画が小島武、解説が山口瞳ときたら、もう読む前から酩酊しそうだ。 酩酊と言えば、本書はよく磨きこまれたバーカウンターに差し出されたバーボンのよ…

『昔日の客』を読んで

長年探していた本を古本屋で見つけた瞬間ほど嬉しいことはない。その本だけ浮いて見えるから不思議だ。あまりの嬉しさに店主に「この本、随分長い間探していたんですよ」と話しかけると、そっけなく「そうですか」と言われるだけでさっさとレジを閉める様子…