飛翔

日々の随想です

黒岩比佐子さんの体調のご快復を祈って

 先日、東京神田で開かれた黒岩比佐子著『パンとペン』(講談社)出版記念講演会では大勢の聴衆がかもし出すやさしさが心に残った。黒岩さんの静かな口調の中に凛と心に期するものを秘めた講演は『パンとペン』に寄せた黒岩さんの渾身がうかがえて感動的だった。
 会場を埋め尽くし、立ち見がでるほどの盛況だったが、空気は穏やかでやさしい気持ちが黒岩さんを包んでいるようでしみじみ嬉しかった。黒岩さんのどの作品からも徹底的に調べて取材し、資料を集め、古書を読みこんでと、その熱意と苦心には感服する。それらを何年にもわたって読み込み租借して吟味を重ねて、平易で明快な言葉にするのだからその筆力はすごい。聴衆の多くはそんな黒岩さんの支持者でありファンであり、作品を愛する人たちばかりだ。
 あのように心やさしい観客と、静かな中に凛としたものを秘めた講演を聴いたことがない。
 多くの人と共に黒岩さんの体調のご快復を祈りたい。

※余談だが、黒岩さんの著書『パンとペン』の中で、
 「1904年、堺の出獄歓迎をかねた園遊会角筈十二社(つのはずじゅうにそう)の池畔梅林亭で開かれ、百五十人余の同志が集まった」
 とあったが、私の実家はこの角筈十二社(つのはずじゅうにそう)のすぐそばにあるので、堺の出獄歓迎会があの辺りで催されたのかと妙に懐かしい気持ちになった。まったくの脱線話である。