飛翔

日々の随想です

2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ボヌール

ボヌール作者:南 桂子リトルモアAmazon音のない静けさの中に身をおきたくなることがある。 そんなとき、南桂子の銅版画を眺める。 まあるい顔の女の子。 花束をかかえ 小犬がいっぴき。 空には鳥が 遠景に木がいっぽん。 さくらんぼの木にさくらんぼ さくら…

「Pity's akin to love」

パンジーは三色菫とも言う。 菫で思い出すのがあの漱石の句。 ・菫ほどな 小さき人に生まれたし(明治30年)漱石 これはどうとればよいのだろうか?道にひっそりと咲く小さな菫。 小さな存在だけれど懸命に咲くスミレほど愛らしいものはない。 漱石はあれ…

『「奥の細道」の顛末』

「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」で始まる『奥の細道』は、人生すなわち旅とした”旅の詩人”芭蕉が到達した生涯の代表作といえる。この芭蕉の研究家であり、近世文学、特に俳諧史を専門とする櫻井武次郎さんが惜しくもちょうど二年前にお亡く…

恋のほてりをさます場所は?

台所からほの暗い恋の川柳をうたった主婦がいた。 俳句と言うほぼ同じ詩形をもつ川柳だからこそ一首が輝いた不倫の歌。 『有恋夫』を書いた時実新子。 俳句だと品格が落ちてしまいがちな句を、川柳にすると、生き生きとしたものになる不思議。・熱の舌しびれ…

『支那童話集』佐藤春夫著 日本児童文庫

古本のレア本です。 本書は中国の昔の本『東周列国志』『聊斎志異』『今古奇観』『太平廣記』から材料をとったもので、 著者である佐藤春夫の「はしがき」によれば、 「別に童話といふのではありませんが、少年少女たちが読んでよかろうと思ふものを集めてみ…

新編明治人物夜話

新編 明治人物夜話 (岩波文庫)作者: 森銑三出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2001/08/17メディア: 文庫 クリック: 5回この商品を含むブログ (12件) を見る 本書は在野の碩学 森銑三が明治の人物に関する逸聞、逸事などを新聞、雑誌、図書などから引用し書き…

書物随筆あれこれ

小説や詩、短歌を読むのは好きであるけれど、随筆を読む楽しさは格別なものがある。 特に書物随筆は楽しくて読書子にとっては読まないで通り過ぎることができないものである。 先ず「書物に関する雄」は森銑三と柴田宵曲著『書物』(岩波書店)をあげたい。…

古本屋を怒らせる方法.

今日は古本屋さんが書いた本ばかり三冊手に入れた。 先ずは大御所。 ミスター神保町なる八木福次郎が書いた『古本薀蓄』八木福次郎(平凡社)、『古本屋を怒らせる方法』林哲夫(白水社)、『女子の古本屋』岡崎武志(筑摩書房)古本屋を怒らせる方法作者:林…

あはれ 秋かぜよ 情(こころ)あらば伝へてよ

殉情詩集 (愛蔵版詩集シリーズ)作者:佐藤 春夫日本図書センターAmazon 秋といえば秋刀魚。秋刀魚といえば佐藤春夫の「秋刀魚の歌」(『殉情詩集』)が浮かぶ。 あはれ 秋かぜよ 情(こころ)あらば伝へてよ 男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食らひて …

新田次郎の文章指導

母への詫び状 - 新田次郎、藤原ていの娘に生まれて作者: 藤原咲子出版社/メーカー: 山と渓谷社発売日: 2005/05/25メディア: 単行本 クリック: 14回この商品を含むブログ (6件) を見る 父・新田次郎と母・藤原ていの娘・咲子が書いた「母への詫び状」の中で新…

嬉遊曲、鳴りやまず

嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯 (新潮文庫)作者: 中丸美繪出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2002/08メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 50回この商品を含むブログ (13件) を見る小澤征爾指揮ウィーンニューイヤーコンサートが衛星放送で世界中に映し出さ…

Chanson d'Automne

Chanson d'Automne 落葉/上田敏Les sanglots longs 秋の日の Des Violons ヰ゛オロンの De l'automne ためいきの Blessent mon coeur 身にしめて D'une languer ひたぶるに Monotone うら悲し。Tout suffoncant 鐘のおとに Et bleme quand 胸ふたぎ Sonne l…

読書子の琴線にふれる詩

文庫本を買うと、本屋がカバーをおかけしますか?と尋ねる。 断ったり応じたり。 カバーの素晴らしいものを発見。 それは長野県長野市にある長谷川書店のそれである。 カバーの図は流れるような草書体の漢詩が配されている。 その漢詩がまったくにくい!!!…

クリステイーナ・ロセッテイの詩

翻訳は大切な役割を果たす。 特に詩においてはその語彙、韻律が生死をわけるようなきがする。 さて、入江直祐氏のクリステイーナ・ロセッテイの詩「初めての」>も旧かな。 文語調ですばらしいではないか。 初めての初めての 君を見し 初めての その日をば、 …

天空渺々

天空渺々(てんくうびょうびょう)金風爽籟 菊一輪 きんぷうそうらい きくいちりん 素風玲瓏 紅一葉 そふうれいろう べにひとは 天空渺々 鳥一羽 てんくうびょうびょう とりいちわ 白秋麗々 我一人 はくしゅうれいれい われひとり(by ろこ)※秋は人を詩人に…

福原麟太郎あれこれ

英文学者の福原麟太郎先生を尊敬している。 それは河出書房から出版された小冊子『英文学入門』という名著を読んで以来のこと。 この本は外務省の役人。つまり、外交官になったばかりの人に研修するときに作られた福原麟太郎先生の名講義を記録したものであ…

英文学入門

英文学入門 (1954年) (河出文庫)作者: 福原麟太郎出版社/メーカー: 河出書房発売日: 1954メディア: 文庫この商品を含むブログ (2件) を見る本書は福原麟太郎が外務省研修所で講演したものである。 講演と言っても堅苦しくなく、自由闊達、縦横無尽に英文学を…

忘れられる過去

忘れられる過去作者: 荒川洋治出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2003/07メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 30回この商品を含むブログ (50件) を見る詩人荒川洋治さんの珠玉のエッセイだ。 どの言葉も詩のようで思惟に富んでやわらか。「畑のことば」か…

「重陽の節句」と紫式部

九月九日は重陽(ちょうよう)の節句。 陽(奇数)が重なる日そして、奇数の中でも一番大きな数字9が重なることから「重陽」といわれ、別名「重九(ちょうきゅう)」ともいわれ菊の花が咲く季節なので、「菊の節句」とも呼ばれる。 さて、この重陽の節句には…

センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー作者: レイチェル・L.カーソン,Rachel L. Carson,上遠恵子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1996/07/01メディア: 単行本購入: 15人 クリック: 96回この商品を含むブログ (91件) を見る最近永久歯が生えてこないという子どもがふえてい…

蜻蛉日記

蜻蛉日記 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)作者: 角川書店出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング発売日: 2002/01/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 17回この商品を含むブログ (11件) を見る かくありし時過ぎて、世の中に、いともは…

(野呂邦暢の名随筆を読んで)(その1)からの続き:

そして二つ目はジョージ・ギシングの「ヘンリ・ライクロフトの私記」についての思い出である。ヘンリ・ライクロフトの私記 (岩波文庫)作者: ギッシング,平井正穂出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1951/01/01メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 17回この商品…

野呂邦暢の名随筆を読んで

先日京都左京区にある古書店「善行堂」さんで買った野呂邦暢の随筆『小さな町にて』(文藝春秋)を終日読みふけった。 大げさに言えば運命に導かれるように古書店の棚に手を伸ばしたところに野呂邦暢の作品が並んでおり、その中の一冊を抜き出した。それが『…

ラファエル前派

ダンテ・ガブリエル・ロゼッテイは人ぞ知る近代英国の詩壇の雄にして画壇の寵児であった。その妹のクリステイーナ・ロゼッテイは兄が描く「処女マリヤ」モデルとしてその姿を彷彿とできる。彼女の美しい詩はいかに賞せられるであろうか? 北原白秋に登場願お…

”The Remains of the Day” 

>英国生活がなつかしく思い出される昨今である。 キャンパス内を流れる小川のほとりで午後のお茶を独りのんびりと楽しんでいると、一人の紳士が傍らにきて隣りに座っても良いかと尋ねた。 「どうぞ」と言うとスコーンとココアビスケットを勧めながら座った。…