そんなとき、南桂子の銅版画を眺める。
まあるい顔の女の子。
花束をかかえ
小犬がいっぴき。
空には鳥が
遠景に木がいっぽん。
さくらんぼの木にさくらんぼ
さくらんぼは音譜の様にたわわにリズムを奏でる
さくらんぼの木に赤い鳥が
横向きにさくらんぼをみている
マロニエの葉
きれながの目の少女
青い鳥
水に浮かぶ舟
どこへいくのだろう
蝶々もついていく
どこまでもどこまでも
水平線の向こうまで
そんなとりとめもない言葉がうかんでくる銅版画
南桂子の銅版画をみんなどこかで見たことがあるだろう。
本の表紙を飾る
お城、鳥、少女、小犬、美しく悲しげに小首をかしげる少女
それはどこかもの悲しげで、遠く幼い頃にみたようなものたち
谷川俊太郎の詩の本の表紙、『幸福な王子 オスカー・ワイルド童話全集』の表紙、福永武彦『幼年 その他』、ユニセフ・グリーティングカード1958などを飾った南桂子の銅版画たち。
心が疲れた時、音のない世界にひっそりといたいとき、南桂子の銅版画をみる。
静かな時の流れの中、絵の中から詩が聞こえ、音楽が静かに聞こえてくる。
もうこの銅版画作品集を持っていさえすればいつでも静けさのなか、穏やかな童話の主になれる。
パリを拠点に世界中の人を魅了した南桂子の作品集<ボヌール>(幸福)から穏やかで、温かな(幸福)をあなたにもどうぞ。