飛翔

日々の随想です

『瞬間を永遠とするこころざし』

朝から雨だ。
 こんな雨の日は読書に限る。岡井隆の『瞬間を永遠とするこころざし』を読んでいる。

瞬間を永遠とするこころざし (私の履歴書)
岡井 隆
日本経済新聞出版社

 岡井は著書の中でこういっている:
  アルチザン(職人)ということばがあり、アーティスト(芸術家)と対比されることがある。わたしは、一芸を技術的に磨き上げたいという志において、アルチザンに徹したいと今でも思っており、これは十七歳で作歌を始めてから今まで変わることはない。(省略)わたしは、いい歌人といわれるより、技のたくみな歌人といわれることを誇りとしたいのである。
基本的な技法をマスターするために修行してきたこの歌人は、その上に立って、さらにあらゆる技法を模索しようとする姿勢に驚きと賞賛を持って著書を読んだ。短詩形のジャンルの中の短歌だけでなく、俳句や詩にも学ぶことが多いとする文学修行とその思索の過程は自伝的な要素を含めて興味がつきない。
 印象的な歌が心に焼きついた。秋のはじめ、中秋の名月の夜に、伊豆山神社で行われた源実朝ゆかりの歌会で詠んだ歌である。

  瞬間を永遠とするこころざし無月の夜も月明かき夜も
生きているこの「瞬間」を「永遠」のものに定着する志だけは、失いたくないと思って今日もまたペンを握っているのである。
 齢(よわい)八十を超えるこの歌人の熱き「志」は技の巧みなアルチザン(職人)としての矜持に満ちていて胸をゆさぶられた。