少し前、このブログ主催で「しりとり575」というのをやりました。
その中にとても瑞々しい句が目をひきました。
初々しい恥じらいを傘に託した、すがすがしい句。
その句は:
・夏の雨 濡れて揺られて 傘ふたつ
鎌倉・明月院をゆく二人を登場させました。
相合傘をするには恥ずかしそうな二つの傘の
心の揺れを表したかったのですが------
と注が添えられています。
そうなのですよね。
この句の良さは「傘ふたつ」にあります。
「相合傘」だともうすっかり仲がよい二人づれになり、情緒が濃厚になりますが、
二つの傘をさすふたり連れとなると初々しい「はじらい)がそこはかとなくにじんで「人恋ひ初めし」ふたりの心の揺れがあらわれています。ここを起点として淡い恋の短編が生まれてきそうです。何というみずみずしい感性なのでしょうか。
この句が清い印象を残すなか、その日の中日新聞の「けさのことば」が目を引きました。
「けさのことば」は一面のコラムの上にあり、歌人の岡井隆氏の解説がついています。
それにはこういう歌が掲載されています。
・おそらくは口にだせずにいたゆえにぼくらの波は高かったのだ
(『麒麟の休日』山崎郁子)
この歌の解説を岡井氏はこう言っています。『夏の海辺にいて、あることを「口にだせずにいる」二人。「ぼくらの波」は、眼の前の波と同じく高まり、二人はいよいよ寡黙になってしまったのだ。』
若い男女の微妙な心情を詠んだものですが、これは上述の句とは熱のおびかたが異なり色々な感情を想起させます。同じ若い男女の感情でも恋の濃淡はパレットにはおさまりません。人の心の色合いはなんと彩(あや)なことでしょう!
絵筆でなく文字でこの濃淡やアラベスク模様を味わえる喜びは格別です。
傘がひとつとふたつの差の綾を短い句であらわした感性に拍手をお送りしたいと思います。
「傘の数」「波の高さ」で心の機微をあらわすとは言葉って本当にすごいですね。
それも575(17文字) 57577(31文字)だけの世界ですからね。
私も傘と恋をテーマに一首詠んでみました。
名月をかくす雨粒 粋なりや 傘なき恋人(ひと)を帰さぬ今宵