飛翔

日々の随想です

文学は美味しいのだ!


久保田万太郎白洲次郎吉田健一池波正太郎らが通ったそば処「よし田」で蕎麦を食べる。背中のリュックには古書店をはしごした釣果がずっしり。夜になれば 池波正太郎の『鬼平犯科帳』をもとに料理を作り、藤沢周平の作品に出てくる銘酒「九平次」を呑むなどと言ったら酔狂だといわれるだろうか?

いや、いや。池波正太郎の『鬼平犯科帳』にでてくる料理屋のリストをひそかに作ろうとしたのはJ.Jこと、植草甚一であり、本屋へ行けば佐藤隆介編による『池波正太郎・梅安料理ごよみ』が上梓されている。
 食通でならした池波正太郎吉田健一久保田万太郎の行きつけの店なら間違いないとばかりに、文学ファンならずも出かける人は多いし、本を片手に料理を作っている人は案外多いのである。その一人が私。

梅安料理ごよみ (講談社文庫)
池波 正太郎
講談社

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 また読んでいてよだれがでそうな酒のつまみを書くのが上手なのは『センセイの鞄』の著者、川上弘美である。

センセイの鞄 (文春文庫)
川上 弘美
文藝春秋

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 また食卓のシーンが多い向田邦子は料理を作ってだれかれかまわず振舞うのが好きであり、料理の器を吟味しているうち骨董に食指を動かし、妹に料理屋「ままや」を出させたりした。

向田邦子の手料理
向田 和子
講談社

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 往年のシャンソン歌手の石井好子も料理好きでパリでの修行中のエッセイは『巴里の空の下、オムレツの匂いは流れる』として出版された。これはパリやヨーロッパ各地で食べた様々な料理の話満載。 オムレツをはじめとした卵料理から、肉料理、サラダまでレシピ付。これがたまらなくおいしそう!

巴里の空の下オムレツのにおいは流れる
石井 好子
暮しの手帖社

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 また森鴎外の娘の森茉莉の『貧乏サバラン』では、それこそよだれが垂れてくるような極上の食エッセイを書いている。家事はまるきり駄目だった茉莉の、ただ一つの例外は料理。オムレット、ボルドオ風茸料理、白魚、独活、柱などの清汁…江戸っ子の舌とパリジェンヌの舌を持ち贅沢をこよなく愛した茉莉ならではの得意料理。

貧乏サヴァラン (ちくま文庫)
森 茉莉
筑摩書房

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そして最後の極めつけは明治時代のグルメ本、いや違った、「食育本」村井弦斎著『食道楽』
である。

食道楽(上) (岩波文庫)
村井 弦斎
岩波書店

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食道楽 (下) (岩波文庫)
村井 弦斎
岩波書店

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今から100年以上前のレシピだと誰が思うだろうか?本格的な西洋料理レシピに呆然として陶然としてうなることまちがいなしである。では紹介しよう。『食道楽』から食道楽会の会を催した広海子爵の家での料理である。

 第一がマルボーントースといって牛の髄の料理。第二がフランス豆のスープ。第三がヒラメのパンデポーソンといってかまぼこのようなもの。第四がポーレシューカナベールと申して鶏肉料理、第五がヒレビーフゴーダンといって牛肉のロース、第六がアスペーキゼリーといって鳥の寄せもの、第七がポンチシヤンペンと申して酒を固めたもの、第八がアスパラガスのクリームソース、第九が七面鳥のロース、第十がサラダロアイヤル、第十一がカビネットプデン、第十二がアイスクリームとお菓子がレデーケーキにデザートの水菓子とコーヒー。

さあ、どうでしょう!100年前にざっとこれだけのレシピを考え供したとは驚くばかり。

 これら本を片手においしい料理を作るのもよし、想像してつばをのみこむのも楽しいものだ。
 文学はおいしいのだ!