- 作者:豊田健次
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 単行本
野呂邦暢の才能を愛した文人は多い。
向田邦子もそのうちの一人だった。
その野呂邦暢の作品『諫早菖蒲日記』を向田邦子に紹介したのは「文學界・別冊文藝春秋」「オール讀物」編集長を歴任した名物編集者の豊田健次である。四半世紀も前、豊田健次が「文學界」と「別冊文藝春秋」の編集長を歴任していた頃のことだ。
「なにかこう。心に沁みるような小説はないかしら」と向田邦子さんに訊かれ、野呂邦暢の『諫早菖蒲日記』をお薦めしたのは、『あ・うん』を『別冊文藝春秋』にいただいたころのこと
とある。
「諫早菖蒲日記」は「文學界」に三回にわたって分載され、単行本になった。第一回が発表された段階で文芸時評に取り上げられ、高い評価と賛辞を受けた。向田邦子はこれをすぐ読んで素晴らしい、感動したと豊田健次に言った由。のちに野呂の『落城記』をテレビ化する話になり、昭和五十五年、大型連休にはいる前上京した野呂と向田は会い、大いに盛り上がった二人。それから数日後の五月七日未明、野呂邦暢は心筋梗塞にて急死。享年四十二。
翌年、昭和五十六年八月向田邦子は台湾上空で飛行機事故で客死。享年五十一だった。
二人の才ある作家を紹介した編集長である著者が二人の出会いを語っていて、まさに時の証言者のようである。
この二人がもし早世しなかったら、この出会いから様々なものが花となって咲いたことだろうと無念になる。
この本は名物編集者である著者が池波正太郎、菊池寛、司馬遼太郎、立原正秋、田中小実昌、永井龍男、平岩弓枝、藤沢周平、向田邦子、安岡正太郎、山口瞳、山田風太郎などの作家との回想を書評、文庫の解説、作家小論、エッセイ、ロングインタビューや対談などをまとめたものでそれぞれの作家の作品からは垣間見れない素顔がのぞけるこぼれ話が満載。
鬼籍に入られた作家たちにはもう二度とインタビューはできない。そう考えるとこの本はお宝本といえるだろう。