飛翔

日々の随想です

梅の花


美術館で「和漢朗詠集」の本物を見たことがある。
冷泉家の当主の水茎も鮮やかな文字は一幅の絵のような美しさだった。
そこにはこうあった:
池のこおりの東風(とんとう)は風渡って解く窓の梅の北面は 雪封(ほう)じて寒し
( 藤原 篤茂 )
(立春の日)東風が吹き渡って、池の氷も東の岸から解けはじめる。 
だが、まだ冬の景色は残っていて、窓の外の梅は北側の枝など、雪がかたく封じこめてなお寒い
この歌にあるように梅が咲く頃になると日差しがだんだん明るさを増して春が近いことをおもわせる。しかし、まだまだ寒い。もうすぐ亡き母の誕生日。母の忘れ形見にダイヤの指輪がある。
それは母の父が、母が嫁に行くとき自分でデザインして特注した指輪だ。
梅の咲く頃に生まれた母にふさわしく梅の花をプラチナでデザインしたもので、真ん中にダイヤがはめこまれた逸品だ。デザインがあまりにも素晴らしいので譲ってくれと云うひとが随分居たものだ。梅の花は小さくて地味であるけれど気品に満ちた香りを放って美しい。
梅の花を詠んだ岡本かの子の歌を思い出す。
月よみの照りあきらけき地(つち)のうへ紅梅の影とがりて黒し岡本かの子

「紅梅の影とがりて黒し」の鋭い写実が素晴らしい。内面を投影している様は深い。
寒さが残るなか、昔の人が言うように「梅一輪 一輪ほどのあたたかさ」
日に日に春に近づくときめきを味わうことにしよう。