飛翔

日々の随想です

『スノーグース』


 表題にある「スノーグース」を含めた3篇(「スノーグース」「小さな奇蹟」「ルドミーラ」)を収めたギャリコの珠玉の作品。
 「スノーグース」は第二次大戦が勃発した時代、ドイツ軍の猛進撃によって「ダンケルクの悲劇」が起こった陰のエピソードを踏まえた作品である。
 ラヤダーはせむしで左腕が萎えた絵描きだった。
 容姿は醜いが人間も動物もあらゆる自然を愛する憐れみと思いやりあふれた男だ。
 灯台に住みついたラヤダーは傷ついた鳥たちを保護し世話をする。
 その彼のもとを訪れたのは白い一羽の傷ついた雁を抱えた少女フリス。

 銃で撃たれて瀕死の重傷を負った白い雁を治療し世話をするラヤダーと少女フリスとの交流。
 渡り鳥である雁のその後と戦争とラヤダー、少女から大人になったフリスのあふれる感情。
 物言えぬ動物を介して一人の男の崇高な行動と愛の真価が読む者の心に深くしみこみ、涙してしまう。

 他の二編も人間と物言わぬ動物との関わりを描いていて、生きとし生けるものへの深い愛情と信頼、大いなるものへの畏敬の念に満ちていて、心温まる三編だった。

 せちがらい世の中にあって、貧困や美醜、動物と人間という境もなく純なものの存在をあまねく示していて、やさしさと温かさに包まれる読後感で胸がいっぱいになった。

 矢川澄子さんの名訳が光っていて、素晴らしいの一語に尽きる。
 表紙絵の美しさ、白黒の挿絵も素晴らしく蔵書として幾度となく読みたい名作。
 

スノーグース
ポール ギャリコ
王国社