飛翔

日々の随想です

さすらいのジェニー

さすらいのジェニー
ポール・ギャリコ
大和書房

 事故で意識を失った少年ピーターは気が付くと猫になった。
 そんなノラ猫になったピーターは、町で負傷した身を一匹のメス猫に助けられる。
 それがジェニーだ。

ほっそりとしためすの虎猫で、顔とのどに一部分白い毛がまざっているのがいかにもあいらしく、おっとりとした風情をあたえていた。ところどころ金色に光る緑灰色の明るい目には、いきいきとしたやさしい表情がこもり、あいくるしさをさらにたかめていた。
 彼女はほんんとうにやせっぽっちで、ほとんど骨と皮といってもよかったが、それでいて、ほかでもないその肉付きのうすいところに、なにかこう一種しとやかな楚々としたあだっぽさがあって、いっそ彼女によく似合っていた。ほかに目立つことはといえば、からだがしみ一つなく清潔なことで、ことに胸の白い毛は白テンみたいにかがやていた。

 ジェニーの姿を客観的にくまなく描いていて、読者を一瞬にして虜にしてしまうが、やがてその内面の素晴らしさがこの物語を一層美しく、奥行のあるものにしている。

 猫の眼から見た人間社会を活写しながら、少年ピーターの内なる成長と、献身的で気高い一人の女性像を描いたものでもある。
 猫の生態が実によく描かれていて、猫好きにも、そうでない人にもすっかり猫に魅了されるのは、著者のギャリコ自身が、猫を中心に書いた作品がいちばん気にいっていると言っていることでもわかるというもの。

 猫に変身したという話のファンタジー性も面白いが、実は永遠の女性像を含む愛の賛歌でもある。
 人間がさまざまな悩みや葛藤や困難にぶつかりながら生きる意味を見つけていく。
 それを猫の姿に借りながら、愛の真価を見出すまでの物語は、ファンタジーでありながら、丈高い文学でもある。
最後の部分では思わず涙がこみあげてくるが、読後の心が清いもので満ちるのを感じた物語だった。

 矢川澄子の名訳が光っていて、言葉の洗練が際立っており、いきいきとした会話文が物語を一層素晴らしいものにしている。