飛翔

日々の随想です

読了本


 2月読んだ短編:
 『おーい でてこい』星新一著(講談社)、『男どき 女どき』向田邦子著(新潮文庫) 『ナポレオン狂』阿刀田高著(講談社文庫)『地下水路の夜』阿刀田高著(新潮社)、『密会』ウイリアムトレヴァー著(クレストブックス)『聖母の贈り物』ウイリアムトレヴァー著(国書刊行会)『一個 秋その他』永井龍男著(文芸文庫)『芥川龍之介集』(新潮社)『短編小説のレシピ』阿刀田高著(集英社新書
 

おーいでてこーい ショートショート傑作選 (講談社青い鳥文庫)
星 新一,加藤 まさし,秋山 匡
講談社
男どき女どき (新潮文庫)
向田 邦子
新潮社
ナポレオン狂 (講談社文庫)
阿刀田 高
講談社
地下水路の夜
阿刀田 高
新潮社
密会 (新潮クレスト・ブックス)
ウィリアム トレヴァー
新潮社
聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)
ウィリアム トレヴァー
国書刊行会
一個・秋・その他 (講談社文芸文庫)
永井 龍男
講談社
短編小説のレシピ (集英社新書)
阿刀田 高
集英社
時雨の記
中里 恒子
文藝春秋

 圧巻だったのはやはり短編の雄、阿刀田高の作品である。
 短編の妙は最後のどんでん返しにある。それまでの緻密に計算された文章が最後にものを言う。名人技は、読者を引き込む語り口のうまさ、文の質の高さ、なるほどとうならされる文の冴えなどである。
 直木賞を取った『ナポレオン狂』は、さすが短編の面白さが凝縮されていてまいった。

 一方、永井龍男の短編は、滋味に富み、いぶし銀のような文章に、しばし、読後の深い味わいにひたった。

 また向田邦子はうますぎる。女こころの妙、男女の心の綾、映像が浮かび、登場人物の声まで聞こえてくる。ほとほとまいりました。
 ウイリアムトレヴァーは古い白黒の映画を観るような味わい深い作品に、しばし溺れた。

 芥川作品は古い民話を基調にした人間の隠された心が軽妙にしかし、それがかえって深く心に刺さった。鼻は有名な作品。

 とにかく、読んで読んで読み飽きるほど短編を秋まで読むつもりだ。詳しい書評はそののちしたためることとする。

時雨の記
中里 恒子
文藝春秋
 
 この中で『時雨の記』中里恒子著(文藝春秋)は短編でなく、小説。
 中年の男女の純粋な愛を描いたもの。
 ドロドロした中高年の猥雑な恋愛でなく未亡人と妻帯者の男のひたむきな愛の日々を中里の筆が雅やかに描いたもの。
 愛というのはどれだけ待てるものか、直情的に愛をぶつけるばかりが「ひたむき」でなく大切な人の心がみちるのを待つのも愛。
 青春期の純愛も愛ではあるが、初老の男女が限りある命をかけて恋する気持ちを描いたものはこの書の他に類を見ない。

 今の世、インスタンラーメンのように、肉体を重ねることによって「愛」や「恋」がすぐ出来上がってしまうと勘違いするのとはわけがちがう。外観や肉体的な魅力とは異なった所作の美しさ、心遣いの雅(みやび)やかさ、相手を気遣う心の美を持つ未亡人。彼女に魅了される一人の初老の男。
 この男女の死を挟んだ恋の物語に読了後、しばし陶然となった。