飛翔

日々の随想です

人恋う季節になりにけり



連日好天に恵まれて空がどこまでも高く、気持ちの良い日が続いている。
 庭のハナミズキに赤い実がつき、紅葉し目を楽しませてくれている。
時は「 読書の秋」である。
私はいつでも日々是読書。
季節に関係ない。
その読書といえば、大読書家。読書家の御大将にして、書評、評論の分野で谷沢永一を抜きには語れない。
開高健との友情、向井敏との交友にまつわるエッセイを読むと男の友情の篤さに思いを馳せる。
開高健と絶交状態にあっても、谷沢は開高健に自宅の書庫を開放して好きなだけ本を読ませたこと。
開高健、谷沢のあいだに挟まれて、自分の進む道に煩悶した向井敏
書評という分野に新しい自分の道を拓いた向井敏
開高健の死に際に二人を決して合わせようとしなかった開高健の妻、牧羊子
名文を遺して逝ってしまった三人を思うとき、夢中になってこの三人の作品を読んできた自分の足跡が波に消されていく砂浜の文字と重なる。

紙つぶて―自作自注最終版
谷沢 永一
文藝春秋

輝ける闇 (新潮文庫)
開高 健
新潮社

残る本 残る人
向井 敏
新潮社

  秋と金木犀とマドレーヌ。
短編小説ができそうな時期到来。
紅葉がより一層濃いものとなり、やがて散りゆくころになると、ガトーショコラのチョコレートがとろりと室温で溶け出すような話が似合いそうになる。

 私はシナリオ教室に通っている。
先生はお年を召した方だけれど、何か言いしれぬ深い人間的魅力をたたえた人で、日本各地から先生を慕って集まってくる。
 教室が終わったあと、数名とランチを共にしたとき、先生の話題をした私に誰かが「あ!顔がぽっと赤くなった」と指摘されううろたえた。
 私にもまだ顔を赤らめるような心の動きがあるのだと知ってびっくりして、再度赤面してしまった。
きっと深層心理の中に先生への憧れがあるのだろう。
 それを指摘されてうろたえたのだ。

  しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで    
平兼盛(40番) 『拾遺集』恋一・622)

 とはまったく別次元、恋心などとは異次元のものだけれど、私の心にもまだういういしい心の動きがあることにとまどいとかすかな喜びを感じた。
ガトーショコラのような濃厚な恋とは程遠いけれど、心はどこではじけるかわからない。

 秋は人恋しくさせるものかな。