飛翔

日々の随想です

書物随筆の面白さ


 小説や詩、短歌を読むのは好きであるけれど、随筆を読む楽しさは格別なものがある。
 特に書物随筆は楽しくて読書子にとっては読まないで通り過ぎることができないものである。
 先ず「書物に関する雄」は森銑三柴田宵曲著『書物』(岩波書店)をあげたい。この両碩学が書物、読書についての薀蓄(うんちく)を傾けた随筆には「書物への愛」が詰まっていてことあるごとに紐解きたい本の筆頭である。
 『書斎のポトフ』開高健谷沢永一向井敏著(潮出版社)、『残る本・残る人』向井敏(新潮社)、『背たけにあわせて本を読む』向井敏文藝春秋)、『風の文庫談義』百目鬼恭三郎文藝春秋版)『塩一トンの読書』須賀敦子河出書房新社)『本の読み方』草森紳一河出書房新社)、『古本愛』樽見博平凡社)、『古本薀蓄』八木福次郎平凡社)、『書痴半代記』岩佐東一郎(ウエッジ文庫)、などを読んできた。

 そのほかにもまだあげきれないほど読んできた。これら書物随筆だけでも本棚が埋まってしまうほどである。われながらあきれるほど読んだものだ。
 その中でも最近読んだのは『本の読み方』草森紳一河出書房新社)、『古本愛』樽見博平凡社)、『古本薀蓄』八木福次郎平凡社)、『書痴半代記』岩佐東一郎(ウエッジ文庫)が新しい。

 古本の世界でこの人ありといえば、『古本薀蓄』を書いた八木福次郎である。八木は昭和十二年から兄八木敏夫を助け「日本古書通信」の編集を担当した人である。この八木が尊敬してやまないのは斉藤昌三と柴田宵曲である。八木は2009年二月に『古本薀蓄』(平凡社’07)で書誌学の父コンラート・ゲスナーにちなんだ賞「ゲスナー賞」を受賞した。
すごいのは九十三歳の今でも月刊の書物誌『日本古書通信』の現役編集者であることだ。
最近読んだのはこの八木さんよりも十歳上の岩佐東一郎が書いた『書痴半代記』(ウエッジ文庫)である。
 岩佐は中学生で堀口大學の高弟となり、日夏 耿之介(ひなつ こうのすけ)門下の一員となった詩人である。中学生時代から古本屋にいりびたるビブリオマニアとなり「書痴」と自称する所以でもある。
 古書を介した交友や日々の生活からにじむ古書への猛愛ぶりは読書子にとって参考にもなり共感を覚えたり、当時の古書店の様子を知るよすがになって楽しい書物随筆であった。

 また堀口大學の人柄やぼろぼろに擦り切れた辞書を皮で製本しなおして使っている様子を知ることができ、堀口大學が好きな私はますます好感を持った。
 どれをとっても本好きにはたまらなく面白いエッセイばかり。