飛翔

日々の随想です

座布団と夫婦


私がいつも尻の下に敷いているものは何か?
 「それは僕だ」と夫は言う。
 大学時代からの付き合いである夫は親友でもあり、喧嘩友達でもある。お互いのよいところも悪いところも知り尽くして結婚した。いまだに学生時代のままの雰囲気の二人だ。鏡を見なければ、私はまだ二十代のままでいる。良妻ではない。むしろ悪妻かもしれない。
 そんな私だが手芸が好きで編み物やレース編みをする。下手の横好きというやつだ。ピアノカバーは手刺繍したものをかけ、ベッドカバーはレース編みの大作をかけている。三年かけて段通じゅうたんを手作りしたこともあった。しかし、熱が冷めて、パタッとそれらをしなくなって久しい。
 夫が開業することになり、今まで勤めていた仕事場の私物を整理しに、一緒にでかけた。
 すべてを片付け、帰ろうとして、ふと椅子をみた。そこには見たことがある座布団があった。
 もうくたくた、よれよれになった座布団カバーは、私がかつて彼のために編んだものだった。もうすっかり忘れていたそれを、夫は長い間、職場で愛用していたのだ。大きなデスクに不似合いの不細工な座布団カバーを秘書のA子嬢も見ていただろうと赤面した。
 きたなくなった座布団カバーなど、捨ててしまえばよいのに、長い間愛用してくれていたことに、ジーンときた。
 「もう、これ捨てるわよ」 
 そういうと、夫はこっくりうなづいた。きっと自分の手では捨てられなかったのだろう。余り毛糸で編んだ粗末な座布団カバーだったけれど、大事に使ってくれてありがとう。
 夫の隠れた心をみつけたようで妙にしんみりしてしまった。