先が見えないほどの土砂降りの雨が降った。
「土砂降りの雨」
英語で言うならこういう表現があるのを思い出す。
It's raining cats and dogs tonight.
Two puppies and a kitten have just landed on the window-sill.
はJean Webster "Daddy-Long-Legs"の中の一節である。
"Daddy-Long-Legs"は「足長がおじさん」として親しまれたJean Websterの名作だ。
「土砂ぶりの雨が降る」は英語の慣用句ではIt rains cats and dogs.という。
この慣用句はラテン語の「cata doxas」(経験に反する)という意が語源だとか。
豪雨は「経験に反する」=未曾有のー観測史上稀に見る雨なのであるから、
この英語の慣用句It rains cats and dogs.は
ラテン語を語源とする「cata doxas」(経験に反する)にぴったりの表現といえよう。
あの日もこんな土砂降りの雨だった。
高校生のある日。下校時、通学バスからおりたとたんに激しい雨が叩きつけるように降ってきた。
傘もなく、バス停から我が家までかなりの距離がある。
雨宿りするところもなく、雨に打たれるまま歩くことにした。
制服もカバンも何もかもがびしょ濡れになってしまった。
首をすぼめてなるべく雨がかかる範囲を狭めようとしていたが、土砂降りの雨は容赦がない。
思いついたように、顔を上げて、雨に打たれるままにした。
顔を痛いほど雨が叩きつける。肩にかかる雨が音をたてて小気味よいリズムを奏で始めた。
両手を広げて顔をあげ、全身を雨に打たせた。
私は雨に打たれるオンデイーヌ。
森の中を子鹿のように走って雨に打たれる妖精のよう。
小走りに駆けると、雨も走る。
靴の中に入り込んだ雨が音を立てる。
雨水を吸い込んだ制服がぴったりと体に張り付き、髪の毛が雨の雫を,うなじから体の中に流し込んでいく。
裸になって雨を全身に打たせたいような衝動に駆られる。
私の中の野生が目覚めた。
制服をかなぐり捨てて、裸になろうとした時、家に着いた。
「cata doxa」ラテン語の魔力が私を濡らせた。