飛翔

日々の随想です

『雪と珊瑚と』を読んで

 『雪と珊瑚と』は21歳のシングルマザーが赤ちゃんを抱えて仕事探しをするころから話は始まります。
 「赤ちゃんおあずかりします」の張り紙の主で年配のくららという女性にであったのをきっかけに
 さまざまな出会いに助けられ、野菜を中心としたカフェを立ち上げて自立していくまでの話です。
 
 生きるとは?食べることと、命との関わり、心と食べ物。育てること。人との関わり。ネグレクト。そんなことを
 読みながら考える時を与えられるような作品です。
 
 心をやんだ人が訪ねる場所「森のイスキア」についてのドキュメンタリ番組を見たことがあります。

※心を病んだ人がやって来る。
体を病んだ人がやって来る。
重いのやら、軽いのやら、荷物を背負ってやってくる。
 そして気が付けば、自分で荷物を降ろして帰っていく。

 青森県弘前市から車で1時間。
 岩木山の麓、標高400メートルの湯段温泉の地に佐藤初女さんの主宰する、憩いと安らぎの家「森のイスキア」がある。
 やってきた人たちに初女さんがすることはごく平凡なことだ。 料理を作り、一緒に食べる。そして話したくなった人の傍らでじっと その人の話に耳を傾ける。言ってしまえばただそれだけのことである。
 だが、その食事は不思議な力を持っている。もし人の体のどこかに魂の器があるとしたら、直接その中にエネルギーを注ぎ込むような、そんな料理なのである。悩みを抱えた人や心を病んだ人たちがその料理に接し、やがて心を開いていく。
「調理」と「食事」という「目に見えるもの」を通して、「人の心」という「見えないもの」の中へ初女さんは旅をする。


 この佐藤初女さんの番組を見て人は料理された食べ物を一緒に食べることで、こんなにも魂を憩わせることができるのか不思議でした。

 でも『雪と珊瑚と』に描かれていることは、その疑問への答えなのだろうと理解できました。

 一家団欒という言葉がありますが、心を込めて作られた食べ物を囲んで家族が食事をすることが、どれだけ家族を憩わせるか。
 どれだけ粗末な食事でも、湯気の向こうにあたたかなご飯や味噌汁があることが人を和ませるのですね。
 しかも、野菜や調理された食べ物が心を込められたものだというのは、体が素直に受け入れて心をほっとさせてくれるもの。
 生きることの根源を食べ物と密接に関わっていることに気づきを与えてくれた作品だったと思います。