飛翔

日々の随想です

うずら豆


 私は料理ブログを読むのが好きだ。
 もちろんレシピを参考にするのだけれど、私が好きなブログ主は何回も納得いくまで作って、それをレシピ公開している。
 丁寧に神経を行き渡らせて作る料理に添えられた言葉は、母の台所を思わせるものに満ちている。
 だから心がさみしかったり、落ち込んでいるとき、その人のブログを訪れる。
 ごぼうのきんぴら。うずらまめのこっくり煮。

 読みながら涙が出る。
 心を込めた料理に温められる。

 写真が美しく、世界料理ブログの写真で上位に掲載されたこともある。

 お人柄が文章にも料理にも表れている。

       ★  ★  ★

 さみしい時、落ち込んだ時、台所に行くと、ふくよかな体に真っ白な割烹着を着た母がいる。
 何かがコトコトと煮える音がしたり、まな板からリズミカルな包丁の音が聞こえる。
 「お母さん」
 と呼びかけると、ふりかえった母のほっぺに、えくぼが見える。

 「ろこちゃん!甘く煮えたうずら豆 食べてみる?」
 と言って出来上がったばかりのうずら豆を小皿に盛る。

 二人でふうふう口から風を吹き込みながら、熱々の豆を食べる。
 こっくり煮えた豆の甘さが落ち込んだ心にしみる。
 「お母さん」
 「なあに?」
 「ちょっと呼んでみただけ」
「嫌〜ねえ、親をからかったりして」
  
 嫌な出来事をすっかり忘れてしまう台所。

 台所の戸を閉めながら、また母に言う。
 「お母さん」
 「なあに?」
 「あのね、うずら豆も好きだけど、お母さんのことも好きよ!」

 (本当は「お母さんが大好き!」と言いたかったのに・・。)
 
 そんな会話を思い出す秋の日。