飛翔

日々の随想です

2009-01-01から1年間の記事一覧

随筆の面白さ 

小説はフィクション。つまり創りものである。 随筆はつくりものでなく、平易な文体で筆者の体験や見聞を題材に、感想をまじえしるした文章のことをさす。 そんな随筆を読むのが好きでいろいろ読み進めている。 科学者でありながら達意な文で随筆集を出した寺…

能の見える風景

能の見える風景作者:多田 富雄藤原書店Amazon 能楽において一家言どころか、新作能まで作った多田富雄氏の随筆を読む楽しさにひたった。 多田富雄氏は免疫学者であり、免疫応答を調整する抑制T細胞を発見。野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング…

ノーベル平和賞と新作能『原爆忌』『長崎の聖母』

アメリカのオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞することになった。 ノルウェーのノーベル賞委員会(他のノーベル賞はスウェーデンの委員会が決めるが、平和賞だけはノルウェー国会から選出した5人の委員が決定する)は、授賞理由をこう述べている。いわく、…

わが真葛物語―江戸の女流思索者探訪

わが真葛物語―江戸の女流思索者探訪作者: 門玲子出版社/メーカー: 藤原書店発売日: 2006/03/01メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (3件) を見る 近来、女性史の研究はめざましくなり、江戸女流文学の存在があきらかになってきた。 本書はそ…

こうちゃん

こうちゃん作者: 須賀敦子,酒井駒子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2004/03/11メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 11回この商品を含むブログ (28件) を見る 須賀敦子さんがお書きになったたった一つの物語。読みながら不思議なさみしさと懐かしさと…

「マーメイド・イン」と石井桃子さん

例えば「川から、どんぶらこっこすっこっこ」と流れてきたものな〜んだ?と聞かれて答えられない人はいないだろう。 正解は「桃」である。 これは桃太郎のお話をほとんどの人が知っているからだろう。 日本昔話や日本の童話は親から子へと読み継がれ、読み聞…

ジョルジュ・バタイユの『文学と悪 』

文学と悪 (ちくま学芸文庫)作者: ジョルジュバタイユ,Georges Bataille,山本功出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1998/04/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 4回この商品を含むブログ (17件) を見る バタイユは文学にとって至高のものとは・・という観点…

回想の父茂吉 母輝子

回想の父茂吉 母輝子 (中公文庫)作者:斎藤 茂太中央公論社Amazon 茂吉の長男,作家で医者である斉藤茂太の回想記『回想の父茂吉 母輝子』(中央公論社)を非常に面白く読んだ。 有名な「蝉論争」の真相について抜粋してみよう。 それは昭和初期の小宮豊隆と茂…

打たれ強く生きる

打たれ強く生きる (新潮文庫)作者: 城山三郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1989/05/29メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ (21件) を見る 百年に一度の大不況と云う言葉がどんどん歩き出し、加速度を増してきた昨今。 働けど働け…

女書生

女書生―ここにして女書生の生涯を生き貫かむと隠れ棲むなり作者: 鶴見和子出版社/メーカー: はる書房発売日: 1997/02メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (2件) を見る 鶴見さんは1995年12月24日に脳出血で倒れた。 その倒れた日を命日と呼び、死後…

雲の誕生

雲の誕生―有元利夫作品集作者: 有元利夫出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/08/01メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (2件) を見る 38歳という若さで世を去った画壇の寵児、有元利生。限定制作であったオリジナル銅版画集「NOTEBOOK](8…

植草甚一コラージュ日記〈2〉ニューヨーク1974

植草甚一コラージュ日記〈2〉ニューヨーク1974作者:植草 甚一平凡社Amazon4年前の9月。 ニューヨークのカーネギーホールで演奏する機会に恵まれた。 演奏の翌日街を歩いていたら、「あ!昨日カーネギーホールで演奏していた人だ!」と言われた。 もーそれだ…

妻の右舷

妻の右舷作者: 四元康祐出版社/メーカー: 集英社発売日: 2006/03/03メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (8件) を見る『妻の右舷』四元 康祐 集英社抽象的な概念を書くことはむずかしいものだ。 ではささやかな日常や身近な者たち…

『羽田浦地図』

羽田浦地図作者: 小関智弘出版社/メーカー: 現代書館発売日: 2003/02メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る この本は何と21年ぶりの復刻である。 この本が21年も埋もれていたとは驚きである。 暴力やセックス、お手軽な恋愛物が出版されてはす…

ボヌール

ボヌール作者:南 桂子リトルモアAmazon音のない静けさの中に身をおきたくなることがある。 そんなとき、南桂子の銅版画を眺める。 まあるい顔の女の子。 花束をかかえ 小犬がいっぴき。 空には鳥が 遠景に木がいっぽん。 さくらんぼの木にさくらんぼ さくら…

「Pity's akin to love」

パンジーは三色菫とも言う。 菫で思い出すのがあの漱石の句。 ・菫ほどな 小さき人に生まれたし(明治30年)漱石 これはどうとればよいのだろうか?道にひっそりと咲く小さな菫。 小さな存在だけれど懸命に咲くスミレほど愛らしいものはない。 漱石はあれ…

『「奥の細道」の顛末』

「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」で始まる『奥の細道』は、人生すなわち旅とした”旅の詩人”芭蕉が到達した生涯の代表作といえる。この芭蕉の研究家であり、近世文学、特に俳諧史を専門とする櫻井武次郎さんが惜しくもちょうど二年前にお亡く…

恋のほてりをさます場所は?

台所からほの暗い恋の川柳をうたった主婦がいた。 俳句と言うほぼ同じ詩形をもつ川柳だからこそ一首が輝いた不倫の歌。 『有恋夫』を書いた時実新子。 俳句だと品格が落ちてしまいがちな句を、川柳にすると、生き生きとしたものになる不思議。・熱の舌しびれ…

『支那童話集』佐藤春夫著 日本児童文庫

古本のレア本です。 本書は中国の昔の本『東周列国志』『聊斎志異』『今古奇観』『太平廣記』から材料をとったもので、 著者である佐藤春夫の「はしがき」によれば、 「別に童話といふのではありませんが、少年少女たちが読んでよかろうと思ふものを集めてみ…

新編明治人物夜話

新編 明治人物夜話 (岩波文庫)作者: 森銑三出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2001/08/17メディア: 文庫 クリック: 5回この商品を含むブログ (12件) を見る 本書は在野の碩学 森銑三が明治の人物に関する逸聞、逸事などを新聞、雑誌、図書などから引用し書き…

書物随筆あれこれ

小説や詩、短歌を読むのは好きであるけれど、随筆を読む楽しさは格別なものがある。 特に書物随筆は楽しくて読書子にとっては読まないで通り過ぎることができないものである。 先ず「書物に関する雄」は森銑三と柴田宵曲著『書物』(岩波書店)をあげたい。…

古本屋を怒らせる方法.

今日は古本屋さんが書いた本ばかり三冊手に入れた。 先ずは大御所。 ミスター神保町なる八木福次郎が書いた『古本薀蓄』八木福次郎(平凡社)、『古本屋を怒らせる方法』林哲夫(白水社)、『女子の古本屋』岡崎武志(筑摩書房)古本屋を怒らせる方法作者:林…

あはれ 秋かぜよ 情(こころ)あらば伝へてよ

殉情詩集 (愛蔵版詩集シリーズ)作者:佐藤 春夫日本図書センターAmazon 秋といえば秋刀魚。秋刀魚といえば佐藤春夫の「秋刀魚の歌」(『殉情詩集』)が浮かぶ。 あはれ 秋かぜよ 情(こころ)あらば伝へてよ 男ありて 今日の夕餉に ひとり さんまを食らひて …

新田次郎の文章指導

母への詫び状 - 新田次郎、藤原ていの娘に生まれて作者: 藤原咲子出版社/メーカー: 山と渓谷社発売日: 2005/05/25メディア: 単行本 クリック: 14回この商品を含むブログ (6件) を見る 父・新田次郎と母・藤原ていの娘・咲子が書いた「母への詫び状」の中で新…

嬉遊曲、鳴りやまず

嬉遊曲、鳴りやまず―斎藤秀雄の生涯 (新潮文庫)作者: 中丸美繪出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2002/08メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 50回この商品を含むブログ (13件) を見る小澤征爾指揮ウィーンニューイヤーコンサートが衛星放送で世界中に映し出さ…

Chanson d'Automne

Chanson d'Automne 落葉/上田敏Les sanglots longs 秋の日の Des Violons ヰ゛オロンの De l'automne ためいきの Blessent mon coeur 身にしめて D'une languer ひたぶるに Monotone うら悲し。Tout suffoncant 鐘のおとに Et bleme quand 胸ふたぎ Sonne l…

読書子の琴線にふれる詩

文庫本を買うと、本屋がカバーをおかけしますか?と尋ねる。 断ったり応じたり。 カバーの素晴らしいものを発見。 それは長野県長野市にある長谷川書店のそれである。 カバーの図は流れるような草書体の漢詩が配されている。 その漢詩がまったくにくい!!!…

クリステイーナ・ロセッテイの詩

翻訳は大切な役割を果たす。 特に詩においてはその語彙、韻律が生死をわけるようなきがする。 さて、入江直祐氏のクリステイーナ・ロセッテイの詩「初めての」>も旧かな。 文語調ですばらしいではないか。 初めての初めての 君を見し 初めての その日をば、 …

天空渺々

天空渺々(てんくうびょうびょう)金風爽籟 菊一輪 きんぷうそうらい きくいちりん 素風玲瓏 紅一葉 そふうれいろう べにひとは 天空渺々 鳥一羽 てんくうびょうびょう とりいちわ 白秋麗々 我一人 はくしゅうれいれい われひとり(by ろこ)※秋は人を詩人に…

福原麟太郎あれこれ

英文学者の福原麟太郎先生を尊敬している。 それは河出書房から出版された小冊子『英文学入門』という名著を読んで以来のこと。 この本は外務省の役人。つまり、外交官になったばかりの人に研修するときに作られた福原麟太郎先生の名講義を記録したものであ…