飛翔

日々の随想です

おイナリさんを囲んで

今日は東海地方、午後から不安定なお天気で、4時頃、空が一点にわかにかきくもったかと思ったら、雨がザーッと降ってきて、突風が吹いた。竜巻かと思うような風で荒れ狂った。
 5時から打ち合わせの予定があった。その前3時半に会合が早めに終わったので、名古屋駅高島屋まで行き、お稲荷さんと太巻きを買って打ち合わせの場所へ引き返した。
 打ち合わせ相手がもうすでに、二人来ていたので、お稲荷さんと太巻きを三人で分けて食べた。
 その時、二人のうちの一人の女性が突然こう言いだした。
 「みんなでそろってこうやって一緒に食べるのって美味しいわね」
 今まで見たこともないような笑顔が溢れていた。
 パイプ椅子に座り、三人で輪になって買ったお稲荷さんと太巻きをお皿もなく食べていたのに、美味しいわねっと言った女性の笑顔に私は金縛りにあったように、打たれてしまった。
 彼女は十数年前、幼い子供を引き取って夫と離婚。
ごく普通の奥様が、その日から経済的にも、精神的にも自立して子供を守り養っていくために、強い女性になることを決意。
働きに働いた。今はその子供は成人し、大学生となったのだ。
 その彼女の言葉だけに私は驚いたのだ。
 「みんなでそろってこうやって一緒に食べるのって美味しいわね」

 粗末なパイプ椅子に座って、会議室の隅っこでパッケージされた寿司を囲んだひと時を、こんなにも嬉しそうに食べて喜ぶ彼女の来し方を思った。
そして満ち足りた自分の生活にこんなにも喜ぶ瞬間があっただろうかと振り返るのだった。

 この1年、様々な年齢、職業の人達とあい、同じ時を過ごす機会に恵まれた。
その一人ひとりの背負ってきた人生を知るたびに、私の知らない世界があることを、知らない生活があることをまざまざと目の前で見て聞いて、大きな驚きと共に大きな宝物を頂いたように思う。
 今日の彼女もその一人である。
 彼女はお寿司は回転寿司の○○へ行くと言った。私はその店を知らなかったのでつい「そこは美味しいのですか?」
 と聞くと、彼女は
 「私は贅沢なおいしい味を自分に覚えさせないようにしているの」
 と答えた。
 私はその答えに自分の愚かな質問を撤回できるものなら撤回したくなった。
 自分の視線でしか物事をみておらず、世の中のことを知らなすぎる自分を恥じ入るばかりだった。
 相手の気持ちになれない私という人間を罰してやりたかった。