飛翔

日々の随想です

セイブルック大学研修二日目(箱庭療法体験)

 第二日目はいよいよ「箱庭療法」です。


箱庭療法では、クライエントは、砂の入った箱の中に様々な人形やオブジェを置くことによって、自分自身の内面世界を表現し創り上げていきます。クライエントは日常の中で関わる人物やイメージの世界の登場人物など、心の中を人形やオブジェに投影しながら箱庭を創ることによって、セラピストと共に自分の心を開放し、見つめ、理解するというプロセスを体験します。
 言葉にならない微妙な心模様を表現し、気づきを得ることができる箱庭療法は、子供から大人まで誰もが利用出来る有効な心理療法です。


 「セラピストはクライエントの箱庭を「解釈」するのではなく、ただ大切にクライエントと共に味わう」というヒューマニステイックなアプローチを重視します。
クライエントに寄り添うセラピストとしてのあり方を学ぶことができます。

 
 教室をはいると大中小、四角形、円形、楕円形の箱が机の上に用意されていました。
 箱の中の底は全てブルーと決まっています。
 

 箱庭療法の権威、チャールズ・キャナディ博士は笑顔が素敵で暖かくユーモアに満ちたお人柄に魅せられました。
 チャールズ・キャナディ博士は、20年以上もの臨床経験を有する箱庭療法の権威です。
DVや怒りのコントロールなど幅広い症例を箱庭療法を応用するほか、教育機関や企業においてもその有用性を導入するなど、多岐にわたって活躍されています。

下の↓棚にあるものは博士が20年以上かけて集まられた貴重なオブジェです。

 1.まず初めに棚のオブジェが自分を呼んでいると思われるもの(お気に入りのもの)を一つ手に取り箱庭のおきたい場所に置く。
 2、逆さにおいてみる
 3、遠い位置に置く
 4、真ん中に置いてみる
 5、埋めてみる

 やってみてどんな感覚か話し合う。

 いよいよ箱庭作成です。
 1、2人組になり、builderとobserverに分かれます。
 2、builderは棚に向かい好きなオブジェを籠の中にどんどん入れます。
 3、observerはbuilderがどの棚の何番目からとったか記録します。戻したのも記録。
 
 builderは、もってきたオブジェをどんどん好きな場所に置いていきます。observerは静かに観察。

※注意事項「箱庭」のなかは神聖な場所(心の中)なので決してobserverはオブジェを勝手に触らぬこと。オブジェが例えば犬だとしたら、「この犬は」などと言わないこと。それは犬のオブジェでも作り手にとっては人間だったり、母親など心の中の特定なものかもしれないので。

みんなそれぞれ違う箱庭の完成です。


 これは私が作った第一回目の箱庭です。


 翌日作った私の箱庭です。
 同じ人が作っても、違う日に作ったものはその日の心なのでまったく違うものができます。



第一回目に初めて作った私の箱庭は、まず初めに手にとったのは(私を呼んでいたように思えた)箱の最後列の中央にある黒い木彫りの人形でした。砂においた途端にこの木彫りの人形は「母」を表していると感じたのです。
 それから棚に行きもってきたのは犬。子供の頃飼っていた愛犬ゴローです。母の人形の横には赤いやかんをおき、左横にはピアノを置き、右横にはおばあさんの人形を置き、黒い木彫りの人形の前にはヒビの入った卵を置きました。すべて無意識に次々と置いていったのです。
 次の列は右横に若い青年を、中央にはクレオパトラのような両腕を広げた華麗な人形を置きました。その横にはウエデイングカップル。
 最前列には翁と媼の面を置いて完成したように思えたのです。
 しかし、どうしても何か足りないような居心地の悪さを感じて棚の方へ歩いていき、思わずとったのが真っ黒な悪魔の人形です。
 箱庭の中に悪魔を入れてみても、まだ足りないような居心地の悪さを感じて再度棚に行き、狼が赤ずきんちゃんのおばあさんの服を着て出刃包丁を振り上げている人形を持ってきて箱庭の中に置いてみました。
 すると私の箱庭は完成した感じがしてペアの相手に「完成しました」といったのです。

 そしてペアのオブザーバーにこう言いました。
 「これは私が歩いてきた全人生を表しています」と。
 無意識に次々と人形をとり、置いていってみたら、そこには私の全人生が現れていてびっくり!

 ペアの相手にこう説明しました。
 後ろの列は私の幼い頃の風景です。優しい笑顔の母が真ん中にいて、すぐ横にはグツグツと美味しそうなものが煮えていて、生まれて初めて飼った愛犬がいて、ピアノを買ってもらった喜びに満ちている子供時代なのですと。
 右側にいるおばあさんは母の母で、一回だけあったっきりの人です。でも心の奥底には忘れていたはずなのにこのおばあちゃんの存在はあったのです。驚きです!私の無意識の中にこの祖母は生きていたのですね。

 真ん中の列は私の青春時代を表しています。一人の青年と知り合って「バラのような日々、自分が世界でたったひとりの中心人物になったような浮き立つ喜びに満ちていた青春」をあわらしています。

 最前列の老いた二人は現在の私と夫の姿です。
 では悪魔と出刃包丁を持った狼は何でしょうか?

 それは私が今まで誰にも語りたくなかった心の奥底に刺さったトゲでした。このおどろおどろした悪魔は置かないで完結しても良かったのですが、どうしても居心地の悪さと足りなさを感じてしまったのです。そして悪魔を置いてこの箱庭は完結しました。

 私はこの箱庭を見て涙が出そうになりました。誰にも言いたくなかった私の心のトゲ、深いところに隠しておいた私の苦悩だったのです。
 このトゲをどれだけ憎く思ったかしれません。でも箱庭を作ってみて悟ったのです。私の人生にこのトゲはなくてはならないものだったことを。
 そう感じた瞬間、心の奥に隠していた重いモノの正体が目に見えて、それがなくてはならない存在だったことに気づいて力が抜けました。
 憎んでいたものは、にくい存在ばかりではなく、私に必要なものだったと叫びそうになりました。

 箱庭療法の威力に驚嘆しました。目に見えない心の奥底、無意識の領域が目に見えて現れたことに。