蒸し暑い空が曇りだしたと思ったら雨が降ってきた。何日ぶりかの雨だ。
遠くで雷が鳴っている。ざっと大量の雨が降ってくれたら、木々にも恵みの雨だ。と思っていたら、ぱたりとやんでしまった。
静まっていた蝉がにわかに鳴きだした。暑い盛りを己の命の極みを燃やすかのように蝉がじりじりと鳴いている。
人間の命も、この蝉の様だったら、一人一人が争わず、実り豊かに過ごそうと思うに違いない。
命の砂時計は無情にもさらさらと落ちていく。人は命の砂時計が刻一刻と落ちていくのを知らない。だから粗末に生きていくのだろう。生死の境をさまよったことがある私は死から生を考えるようになった。
と言って充実した日々をおくっているかというとさにあらず。のど元過ぎてしまえば、また生きていることのありがたみが薄れていくのだ。人間とは、私とは、なんと愚かなことだろう!
蝉の声を聴くたびにその愚かさを思い知らされる。
お盆を過ぎた庭には命の営みを終えた蝉の死がいが点々と黒い姿をさらしている。仲間の死も知らないように樹皮にしがみついて他の蝉が命を謳歌するように鳴いている。