飛翔

日々の随想です

夏の涼 三題

 「蝉しぐれ」と聞くと藤沢周平の小説を思い出す。清流と木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長してゆく少年藩士の姿が目の中に浮かぶ。
 しかし、今の私には「蝉しぐれ」と聞くと頭の上から蝉の声が滝のように降り注いでくる「音の洪水」でしかない。庭の一角にそそりたつケヤキの太い幹にはびっしりと蝉がしがみついている。そして枝から枝へと蝉が飛びかい、時には網戸にまでしがみつぃて鳴いている者もいる。我が家の庭はこの蝉にのっとられ、今や音の洪水である。
 この蝉の声を聴いているとじりじりとフライパンの上で焼かれているような熱を感じる。
 そこでせめてもの涼をもとめてかき氷を食すことにした。

 夏はやはりこれに限る。
 

 風鈴のたえなる音色が一幅の涼。


 そして夜はこんなふうに涼風(すずかぜ)に吹かれてひと夏の恋のほてりをさます・・・な〜んてことがあったらいいなあ。

  涼しさや袂(たもと)にあまる貝のから (一琴)