飛翔

日々の随想です

雨はいちんち眼鏡をかけて


尾形亀之助詩集 (1975年) (現代詩文庫〈1005〉)
尾形 亀之助
思潮社

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六月は陰暦六月の雅語として「水無月」と呼ばれる。六月は雨がよく降る月であり、水が無いの反対である。「水無月」の「無」は「無い」ではなく、「の」にあたる連体助詞「な」のこと。つまり「水の月」という意味。
日本列島は縦に長く、この時期豪雨に泣く地域があるかとおもうと、渇水に泣く地域があり、雨には一喜一憂する。
尾形亀之助の詩集には「雨」という詩が無数にある。
(この詩集には、「雨になる朝」という詩集全篇も含んでいる。)
あげてみると「昼の雨」「雨降り」「雨」「雨・雨」「雨になる朝」「雨日」「雨の祭日」「雨が降る」「梅雨の中」「雨ニヌレタ黄色」と、その数も多い。
その中から「雨降り」を引いてみよう。
「雨降り」
地平線をたどって
一列の楽隊が ぐずぐず していた
そのために
三日もつづいて雨降りだ

※「前線」などという用語を使わずにこんな素敵な詩を天気予報で流したら「雨降り」もどんなにか楽しいではなかろうか。
「梅雨の中」

雨の日は早くから部屋に電燈がついて
うす暗くなった立樹の上に白けた空が窓のように残った
電燈を見ていると電燈の中にも雨が降っている

ときおり梅の実が落ちる

何故ぼんやりしているのか
外が暗くなりきると夜になってしまった
そして
一日中傘をさしていたような気持ちになっていた

※最後に紹介するのは「雨」に関してこんなに斬新でぴったりとする「オノマトペ擬音・擬態語」があったのかと新鮮な驚きをもった詩「雨・雨」でしめくくることにしよう。
「雨・雨」
DORADORADO
TI-TATATA-TA
TI-TOTOTO-TO
DORADORADO

TI-TOTOTO-TO
DORADORADO-
雨は
ガラスの花
雨は
いちんち眼鏡をかけて

※「無為を貫徹した詩人」と称される尾形亀之助
「雨はいちんち眼鏡をかけて」
この言葉に上記の冠など無用。「詩人」尾形亀之助が書いた「雨・雨」の詩。
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