飛翔

日々の随想です

宵待草のやるせなさ


 今日は「雨水」(うすい)。
 二十四節気の一つで、温かさに雪や氷が解けて雨水として降り注ぐ日。
天文学的には、太陽が天球上の黄経330度の点を通過する時。昔から、農耕の準備を始めるのは雨水が目安とされて来た。また、この日に雛人形を飾附けると良縁に恵まれるとされている。雨がふるだけならよいが、空から隕石が降ってきた。
 今日は一通の通知を待ち焦がれていた。まるでラブレターが来るのを待ってでもいるように。そういえば、  ♪待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな♪
 という古い歌があったっけ。
 『宵待草』(宵待ち草:よいまちぐさ)は、大正浪漫を代表する画家・詩人である竹久夢二によって創られた詩のタイトル、および歌である。
 今宵は月も出ぬそうなどころか、今日は雨だ。宵待草のやるせなさを通り過ぎてしまって冷たい雨に心まで濡れてしまった。この雨は「こぬか雨」だろう。「来ぬ」雨だった。と洒落てみたもののがっかり。しょんぼり。
 こういう日は庄野潤三の本をしんみり読むに限る。

自分の羽根 庄野潤三随筆集 (講談社文芸文庫)
庄野 潤三
講談社

このアイテムの詳細を見る

 おだやかな日常が静かに暮れて行く庄野作品は雨の日に良く似合う。
 「よく似合う」といえば、太宰治である。
上記にあげた「マツヨイグサ(待宵草)」は、ツキミソウ(月見草)などと同種の、群生して可憐な花(待宵草は黄色、月見草は白〜ピンク)をつける。夕刻に開花して夜の間咲き続け、翌朝には萎んでしまうこの花のはかなさが、一夜の恋を象徴するかのようで、後には太宰治も好んで題材とした(富嶽百景 「富士には月見草がよく似合う」)。

富嶽百景走れメロス 他八篇 (岩波文庫)
太宰 治
岩波書店

このアイテムの詳細を見る

 待てど暮らせど来ぬ知らせから連想ゲームのように頭の中を宵待ち草と月見草、太宰治庄野潤三が通り過ぎていった。