飛翔

日々の随想です

惜別の情


「女の髪は命」だなんて昔の言葉?
 いえいえ、今も命とまではいえないけれど、たった1cmのことで一喜一憂するのが女。

  いつも行きつけの美容室の美容師さんが突然家庭の事情で辞めてしまった。
 私の髪は美容師さん泣かせの難しい生えぐせを持っている。小学生の頃は6年生まで刈り上げにしてワカメちゃんスタイルだった。それも床屋さんでベテランの店長に6年間お世話になった。床屋さん通いも最後の日、蝶ネクタイのベテラン店長さんが泣きながらお別れの記念写真を撮ってくれた。

ジョン・エヴァレット・ミレイ 《アリス・グレイの肖像》新潟近代美術館蔵

今通っている美容室は東京に本店があり、母の代から続く皇室ゆかりの名美容室だ。
 その昔、良家の子女はこの美容室でヘアメイクをしてもらい、着付けもしてもらってお見合い写真を撮って嫁いだというゆかりの美容室。
 美智子皇后陛下のヘアメイクと着付けもかつてはここの美容室のオーナー美容師さんがなさったとのこと。
 その母の代からの美容室が名古屋に支店をだしたというので行くようになって久しい。
 個室感覚の素敵な美容室の担当の美容師さんは代官山にその人ありと名を馳せた雑誌でも有名な美容師さん。
 気さくで的確な提案があり素敵な人だった。その美容師さんがふるさとにお帰りになってしまい、私の髪も私も秋風にさみしく吹かれてしまっている。

 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ』が描いたリリス

 たかが髪の毛と言われそうだが、やはりヘアスタイルは容姿の印象を劇的に変える大事なもの。
 多少へちゃむくれな私でも、ヘアスタイルでカバーできるのだから美容院は命懸けで出かける。
 小学生の頃通った床屋さんのマスターとのお別れも涙なくしては語れないほど愛惜の情にかられたけれど、今ここに来て突然の美容師さんとのお別れも、さみしさが増すものとなっている。
 色々な人との関わりがあるけれど、自分の分身でもある髪の毛を切ったり、結い上げたり、メイクをしたりして、素材以上のものに創りあげてくれる存在は特別な存在である。
 技術もさりながら、センスがなければならない。全体のバランスを考え、トレンドも考慮し、トータルバランスを考える「美のコーディネイター」が美容師さん、ヘアメイクさんである。

 子供の頃6年間お世話になった床屋さんのマスターが最後に泣きながら記念写真を撮って別れを惜しんでくれたのは、料金を払って終わりではない関係が床屋さんと幼児の私には出来上がっていたからだろう。
 美容師さんとのお別れがこんなにも寂しく感じられるのはなぜだろうか。それは親身になって髪を扱ってくれた人へ惜別の情だろう。