蒸し暑くなってきたとたんに、蚊がでてきた。
蚊という生き物はどうみても愛おしいとは思えない。
しかし、「蚊」は文学する生き物なのだ。
なぜならやたらに文、文、文とやかましいからである。
それに蚊と云う字は虫偏に文と書く。
かの漱石は
・叩かれて 昼の蚊を吐く 木魚(もくぎょ)かな
と面白い句を詠んだ。
お寺で和尚さんがポクポクと木魚(もくぎょ)を叩いたら、中からぶ〜んと蚊が出てきたというユーモラスな俳句だ。
では他の文人たちはどうだろう?
詩人のまど・みちおさんはたくさんの「蚊」の詩を作った。
カ
その 一しゅん
なつの ゆうがたが
かおを しかめた
じぶんが たたかれたかのように
たたいた ひとの
はなの さきで
つぶれて おちて
カは
ひっそりと のぼっていった
いちばんぼしの
はるかな めくばせに ひかれて
いまにまたたきはじめるのだろうなんばんぼしかに なって
みえないほどに かすかに・・・
(『ぼくがここに』まど・みちお著 童話屋より)
※まど・みちおさんは蚊にも優しいまなざしを向ける人。
私なんぞは「ここであったが百年目!」とばかりににっくき蚊を直ちに成敗しないではいられない野蛮人である。
ではこの辺で真打登場。
あの清少納言さんはどう思っているのだろうか、伺ってみよう。
『枕草子』二十八段目
「にくきもの」に出てくる出てくる:
「ねぶたしとおもひてふしたるに、蚊のほそごゑにわびしげに名のりて、顔のほどにとびありく。羽風さへその身のほどにあるこそいとにくけれ」
(『枕草子』小学館より)
とある。
どうです!清少納言さんも私とおんなじじゃあありませんか。
昨夜は「蚊のほそごゑにわびしげに名のりて、顔のほどにとびあく」のを一撃したのである。
まど・みちおさんの奥さんにはなれそうもない私。
でも清少納言さんとはお友だちになれそう。
え?文学友だちかって?
ま、ま、まさか!
蚊退治友だち
刺されたらかゆいだけに
「蚊友」(かゆ〜)