飛翔

日々の随想です

「書を捨てて街に出よう」


また本の世界の魅力にひきこまれる日々を過ごしている。
谷崎潤一郎の作品集を読みふけっている。

陰翳礼讃 (中公文庫)
谷崎 潤一郎
中央公論社
まだ文字というものを教えられていない頃、姉たちの「いろは積み木」に魅せられて遊んでいるうち、いつのまにかひらがなを覚えた。そして絵本のとりこになり、家じゅうに散乱している本の山にうずもれるようになった。
 年の離れた姉たちとは遊んでもらえない分、家の中の本は私の楽しい友達であった。
  本を読んでいる間も、本を閉じた後も、文字から与えられた世界にひたったままの状態で夢遊病者のようだった。学校へは本を持っていかなかった。一度読み出したらその世界にひたりきって授業に入っていくことができなかったからだ。
 今またその頃の幸せを取り戻したようだ。その分家事がおろそかになりつつある。
 お茶碗を洗って水切り籠にいれる。そして気がつくとまた水切り籠からお茶碗を取り出して洗っている。もう頭の中はすっかり本の世界でうずめられている。
 遠くで犬がほえている。あれは「子犬のピピン」だろうか?
小犬のピピン (せかいのどうわシリーズ)
ローズマリ サトクリフ
岩波書店

 「ねえ、お茶まだ?」と夫の声がする。
やかんにはもうとっくに湯がにえたぎっている。はっとしてわれにかえる。
時は緑したたる季節になった。
書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)
寺山 修司
角川書店
 寺山修司はこういう。
 「書を捨てて街に出よう」と。
 それを一番できなかった人の言葉だ。
 書を捨てるなら野にでよう。


 初夏の野にはあのバターカップの花が咲いているかしら?
  マーテイン・ピピンがやったように、バターカップ(きんぽうげ)の花を摘んできてあごの下でくるくるまわして占いをしてみたい。
 英国にいた時友人のRが野に出て私のあごの下でバターカップの花をくるくるまわしたことが懐かしい。緑したたる英国の田園ではブルーベルの花が今を盛りに咲いていよう。
 ファージョンが愛した英国の地にまたいつか行けるといいなあと夢見る。 
 明日晴れたら野にでてきんぽうげの花をさがそう。