飛翔

日々の随想です

旅の衣は鈴懸の


旅というと有名な謡
♪「旅の衣はすずかけの、露けき袖やしほるらん・・」が頭に浮かぶ。
能「安宅(あたか)」のなかの謡である。歌舞伎十八番のひとつ「勧進帳」は、この能「安宅」を元にしてつくられたもの。
長唄
旅の衣はすずかけの、露けき袖やしほるらん
 時しも頃は如月の、きさらぎの十日の夜、 月の都を立ち出て
  これやこの、行くも帰るも別れては、知るも知らぬも逢坂の、
   山かくす、霞ぞ春はゆかしける、
    波路遥かに行く舟の、海津の浦に着きにけり。


※四世杵屋杵屋六三郎(後六翁)作曲。謡曲「安宅」を題材に歌舞伎十八番勧進帳』の伴奏に使われた長唄曲。
兄頼朝と不和になった義経主従が、北国へ落ちていく途中、安宅の関で富樫にあやしまれる。
が弁慶の機転で無事通り抜ける。
後を追ってきた富樫の勧める酒を飲み、豪快に延年の舞を舞い六法を踏んで退場するまでが有名な歌舞伎十八番勧進帳

この有名な「勧進帳」をパリ「オペラ座」で興行したのが海老と先代団十郎一門。
つまり歌舞伎の名門 成田屋 市川團十郎である。

これはそもそも能「安宅」を元にしたものだ。
能「安宅」の作者は不明であるけれど、この構成の見事さには驚嘆する。
そもそも登場人物の「弁慶」はどんな人物をイメージするかと聞かれると「弁慶」と「牛若丸」を頭に浮かべ力づくの武力の人と云うイメージがわく。

しかし、能でしばしば登場する弁慶は沈着冷静な知力の人という趣が濃い。
この能「安宅」でもその弁慶の咄嗟の知力がものをいう。
しかも関所を突破できるかいなかの瀬戸際。
義経を山伏に変装させて関所を突破するという命がけの場面。

この極限状態で果たして一人の人間がどのように行動するか。
そこが見せ所、見所である。

歌舞伎はこの能をデフォルメして成田屋親子がパリオペラ座でみせるというのだから世の中変わったものだ。
さてパリジェンヌ、パリジャンたちは理解したのだろうか?
能「安宅」を能舞台で観るもよし、歌舞伎で観るもよし、文楽で観るもよし。

そして私は何より謡本でこれを読むのを至福としている。