飛翔

日々の随想です

読書百遍

「読書(どくしょ)百遍(ひやつぺん)義(ぎ)自(おのずか)ら通ず」
 ということわざがある。
 (百遍も繰り返して書物を熟読すれば、よくわからなかった意味も自然にわかる)という意味だ。

 ヘミングウェイの作品に『老人と海』がある。
第54回ヘミングウェイカップは世界で最も歴史ある大会。キューバの海を愛した文豪・ヘミングウェイが始めた大会で、競技のルールには「カジキを船に寄せるまで誰の助けも借りず1対1で闘う」という文豪の精神が引き継がれている。ヘミングウェイにあこがれる若者、カジキの引きの強さを味わいたい釣り人、地元の名誉をかけたキューバの漁村の男たち、それぞれ思いを抱き競う世界各国の腕自慢に密着した4日間のドキュメントをハイビジョンで見た。
 そのドキュメンタリー番組の中で釣り大会一位になったのは北欧から来た若き釣り人だ。
 彼は働いて100万円を貯め、つりボートを借り、恋人とキューバのこのつり大会に参加したと言う。
 彼はヘミングウェイの『老人と海』を十代の時に読んで感動。以来百回以上読んできたという。
 その愛読ぶりに感動したが、愛読するばかりか、いつか、キューバに来てヘミングウェイカップに参加。
 ヘミングウェイと同じような体験をしたいと思い続けて実行したのだから驚く。
 読書が好きな私であるが、一冊の本を百回以上読んだものがあっただろうかと振り返ってみた。
 書評を書くときは三回読み返して書く。一回読んだだけで読後の熱のまま一気に感想を綴ることもある。
 しかし、一回読んだんだけでその作品のなんたるかを語っても良いのだろうかと思うことがある。それは読んでも読んでももう一回読みかえしてみたいと思う作品に出会ったときだ。
 人間でもそうだ。一回合っただけで大体の人物像が描けるような人と、合うたびにもっと知りたいと思う人がいる。人間も読書も、何回もあってみたい人、何回も読みたくなる本がきっとあるはずだ。
 人間に関して言えば、そんな人に出会ったが、本はまだお目にかかれない。
 いや、そうではない。読解力が足りないのと、熟読玩味せず、先をいそいでいるからかもしれない。
 『老人と海』を十代のときにはじめて読んで以来、百回以上も読んできたその青年の瞳にキューバの海の青が広がっていた。