夜のバラード | |
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昔、ジャズボーカルをやっていたことがある。
今日はむしょうにサリナ・ジョーンズが聴きたくなった。CDラックを探してもみつからない。そこで図書館へ出かけて借りてくることにした。このCDに選曲されているのはスタンダードの名曲ばかり。バックミュージシャンもすばらしく、バンドの編成は5管を加えた中型バンドだが、サリナのヴォーカルをくっきりと浮かび上がらせる、控えめな好感度満点の繊細な演奏であるのも良い。ギター、アルトサックス、フリューゲルホーンが要所でソロを演奏し、ムードを盛り上げている。
また、ジャズを演奏したくなってきた。
というところで、サリナ。ジョーンズを聴きながら今日は『日本の名随筆』を読むことにした。
虚構の世界よりも、随筆はその人物の体温が感じられ、肉声を聞くようで魅せられる。
今日は福原麟太郎の随筆集を読み始めた。
能のところでは幼い頃からたしなんだ謡についての随筆が味わいがあって郷里での謡の思い出が白眉。
面白くて一気に読むのが惜しいような、それでいて早く読んでしまいたいような、まるでおいしいお菓子を目の前にした幼子のような胸中だ。
寺田寅彦や、中谷宇吉郎などのように科学者でありながら文人としても味わい深い随筆を読むのは面白い。両者とも、科学は日常の中にあるとして、「立春の卵」や「雪の結晶」のように実際日常の中の科学的現象にまなざしを投影しているあたりは他の文学者にはみられない。
最近では養老先生が華々しく活躍している。
昆虫に関してはファーブルを筆頭に、わが国では奥本大三郎の本が実に面白い。
この人たちは文学者にみられるある種の「衒い」や美辞麗句、修飾語を弄することに腐心することがなく、事象への鋭い観察眼が基点となっていて読者にまっすぐに伝わる魅力がある。
この魅力にはまると虚構の世界がときとして色あせて、うそ臭くみえて少しく遠ざかりがちとなるわけだ。
随筆の魅力はかみしもをつけない「着流し」の風情がある。
特に麟太郎先生の文は格別だ。縦横無尽に語られる人生は点描画のよう。離れてみると一つの絵となっていて、近づくと一粒の真珠のきらめきがある。
さ、続きを読むこととしよう。