飛翔

日々の随想です

ろうそく能

2009年6月に行われた「ろうそく能」狂言のレビューである

「ろうそく能」のレビューである 。
 豊田市能楽堂 午後5時。客席も能舞台も真っ暗闇の開演である。
笛と大小の鼓が聞こえ始め、能舞台に手蜀を持った人が二人、静々と入って来て、橋掛かり、舞台と計11本のろうそくを次々と灯していく。
灯がともされるにつれて、舞台が幻想的な様相を呈していく。
番組は名作二番。能「屋島」、狂言「井杭」・

狂言和泉流)「井杭」:
野村萬人間国宝)、万蔵、虎之助。
野村万蔵家三代によるめでたくも楽しい狂言である。

(内容)
井杭と呼ばれる男(シテ虎之助君)。ひいきにしてくれている某(アド野村万蔵)のところへいくと頭をたたかれるので、清水の観音に願をかけたところ、姿が見えなくなる頭巾をいただいた。某は井杭を探し回る。そこへとおりかかった占い師(小アド野村萬)に某は占わせる。捕らえられそうになる井杭は反撃に。姿が見えないことをよいことに耳をひっぱったり、背中を叩いたり、。

■ 井杭役は子供が演じることが多い。虎之助君は小学校低学年くらい(?)。祖父野村萬人間国宝)と父万蔵を相手に堂々の狂言。愛らしくも朗々とした声と素直さに客席は沸きに沸いたのだった。
外国人がちらほら。
言葉はわからずとも、この狂言なら万人に受けること間違いなし。
理屈や堅苦しさなどなく、古今東西にかかわらず笑いを自然と呼び起こす狂言の魅力。幼い虎之助君が能舞台の隅から隅まですり足もみごとに動き回って観客は大喜び。役とはいえ人間国宝の祖父や父の頭、背中を叩いて「井杭」は欣喜雀躍。いや、欣喜雀躍したのは観客のほうだった。狂言が静かなブームであるわけがわかろうというもの。
さて、人間国宝である野村萬氏にとって孫と子と三代揃っての舞台は感無量であったろう。
親子三代のめでたくも楽しい狂言であった。

※余談として、文禄二年(1593年)、京都御所での能の催しで、豊臣秀吉徳川家康前田利家の三人が「耳引き」という狂言を演じた。それがこの「井杭」ではないかとされている。秀吉が井杭の役をやったのであろうとされている。
サルが、おっととと、もとい、秀吉が「井杭」役をつとめて、家康や利家の頭、背中を小突く様子が目に浮かぶ。