飛翔

日々の随想です

「ろうそく能」鑑賞記「屋島」弓流し奈須与市語り

 「ろうそく能」鑑賞記である。
 能(観世流)「屋島」弓流し 奈須与市語り

 前シテ漁翁(後シテ)源義経:武田志房
ツレ魚夫         :武田友志
ワキ旅僧         :福王和幸
アイ屋島の裏人      :小笠原 匡

 内容
 旅の僧が四国の屋島で塩作りの家に泊めてもらう。
主の老人は僧が都から来たと聞くと懐かしがって涙をながす。
やがて主は源平の屋島の合戦の有様や、義経の身代わりに死んだ継信の話などを語る。
老人は義経の霊であった。霊はやがてどこへか消える。

僧は所の者を呼び、源平合戦の話を聞く。
ここでアイが語る「奈須与市語」は狂言方の重い習い物で、もっとも見所である。
後半は華やかな武将姿の義経屋島の合戦での弓流しを再現。
美しい詞にのった技と型が見所。

  「弓流し」の名場面である。

 波打ち際で義経はうっかり持っていた弓を取り落としてしまう。
弓は波にのって沖合いに流され、義経はそれを取り戻そうと沖合いに馬を乗り入れてゆく。
それを観た平家方は船を義経に漕ぎ寄せ、熊手をつかって義経を絡め取ろうするが、
義経はたくみに熊手を切り払い、無事弓を取り戻す。

義経は、自分は名もない武将で、ここで自分の力量に合わせた弱い張りの弓を平家に取られれば、非力な小者だと噂がたち面目もたたない、
命がけで弓を取り戻したのは名誉のためであるとした有名なくだり。

 後シテとなって現れた義経の武将姿はその絢爛な能衣装がろうそくの灯りのなか、ひときわ輝いて、
観世流の精鋭、武田志房が世阿弥の詞に乗って「弓流し」の名場面を舞い謡った。

面をつけての視界は針の穴ほど。ろうそくの暗い灯りの中、舞い演じるのは容易なことではない。

 途中のアイの狂言方の語りは重い習い物として最も見せ所であり、謡曲でも屈指の名文とされている。

 一人四役を長袴をさばきながら能舞台前面で語るのは至難のわざ。
 アイをつとめた小笠原 匡は豊かに力強くこの大役を果たした。

 シテの「面白や月海上に浮かんでは波頭夜火に似たり」で始まる謡。

「春の夜の波より明けて」と夢からさめ修羅のときは去り、暁になって終わる。

まさに「ろうそく能」ならではであり、幽玄美がろうそくの灯りにゆらめくのであった。

 義経のもっとも華麗な活躍ぶりを美しく、凛々しく演じた武田。
囃子方にも名手を揃えて世阿弥の名曲は現代に見事に浮かびあがった。

 ろうそく能ならではの幽玄美がそこにはあった。
名曲。