飛翔

日々の随想です

『大根列車』(汽笛は時空を越える)

戦後77年が過ぎようとしている。
 戦争を知っている人が次第に少なくなろうとしている。
「平和」と簡単にいうが、戦争を知らないものたちは「平和」のありがたさも知らないのではなかろうか。
 私も戦争を知らない世代だ。

 では戦争の悲惨さやむなしさや殺戮の恐ろしさ、大切な肉親や友人、縁者を失う悲しみをどうして知ることが出来るのだろうか?
 それは語り継ぐことであろう。
 演劇や映画の実録、写真などで伝えることや、戦争体験者の生々しい証言を語り継ぐことでその悲惨さを皮膚で体感できるというものだ。
 今日東海ラジオで放送された『大根列車』(汽笛は時空を越えて)は愛知県大府市を舞台としたラジオドラマである。戦前・戦中・戦後の夫婦の物語である。
 配役は大府で大根を作る「しんぞう」68歳。妻「とみ」、その他周辺の者たち。
 尾張の名物は大根。細くて長いのは守口大根。そして太くて白いのは「宮しげ大根」
 大府には「大根」と書いて(おおね)と呼ぶ地域があるぐらい大根畑(みやしげだいこん)が広がっている。この大根は生の大根のほか、切り干し大根にしたり、タクアンにしたりして出荷される。
シーン1
 妻「とみ」は夜中に夢を見る。遠くに汽車の汽笛が聞こえてくる。石炭列車の音。
 20年以上前、戦争で南方のジャングルに行ったきりの一人息子の「ふとし」が大根の初採りの日に間に合うように列車で帰ってきた!!と はねおきる。
 寝巻きの上にどてらを着て懐中電灯をもって夫婦は駅まで走っていく。
 夜明けの空を見ながら息子が生まれた大正14年の日を思い出す。当時盛んだった労働争議の中、大根作りに精を出すしんぞうととみのあいだに生まれたのは大根のように太くたくましくなるよう名付けられた「ふとし」だった。畑でとれた大根を切干ダインコンニしたり、タクアンにしたり、福神漬けにしたりして夫婦は働く。昭和六年満州事変勃発。
 一人息子の「ふとし」は夫婦が上の学校まで進学するのを拒んで高等小学校を卒業後大根作りの跡継ぎとして畑で精を出す。切干大根の出荷が多くなり手伝いの女の子「ようこ」を雇う。切り干し大根を戦地に出すため、地域の人たちはもっこをかついで大根列車を走らせるための線路敷設をする。
 昭和15年。「大根列車」が走るようになった。
 「ふとし」は「ようこ」にいつか世界の果てまで大根を送る自分専用の「大根列車」を走らせたいと夢を語る。「ふとし」は戦地に送り出される。除隊寸前に大東亜戦争が勃発。
 大府からは出征兵士の食料になる切り干し大根、タクアンを積んだ「大根列車」が出た。
 夫婦は戦地の息子にも届くようにと祈って必死に大根作りに精を出す。
 昭和20年終戦の前、からっぽの白木の箱が戻ってきた。それは「ふとし」の戦死を意味していた。妻「とみ」「こんなからっぽの箱がふとしのわけはない!!」
 「戦争なんかに殺されてたまるか!!!!」
と畑に出て絶叫する。
終戦後復員兵を乗せた「大根列車」が到着する。夫婦は「ふとし」はいないか、誰か知っている人は居ないかと尋ねまわる。
 ようこに縁談がもちあがるが一向に結婚しようとしない娘を心配してようこの親が「ふとし」といい交わしていたのではないかと尋ねに来る。夫婦はきっぱりとそんなことはない。幸せな結婚をするようにと言って親を帰す。
 その後よう子が来て思いがけないことを告白する。
 ここからはこのドラマの見せ場なのでブログで種明かしはしないことにする。
しんぞうは「よう子」に「ふとし」のことは忘れて幸せになれと説得。
 よう子が帰った後、妻「とみ」は畑にかけていき、大根をめちゃめちゃに引っこ抜きながら絶叫する。
 「骨ひとつ、髪の毛一本なく、そんなわけのわからない死に方していいんですか!!!!!!」
 駅で寝巻きにどてらを着たままの夫婦の前を突然12両の「大根列車」の機関車が煙をはいて通過する。先頭車両には身を乗り出すように、むすこの「ふとし」が笑いながら手を振って過ぎていく。
※作・演出 麻創けい子、出演「ひと組」によるラジオドラマ「大根列車」。
 ドラマが終了して夫の顔を見たら頬が涙で濡れていた。笑おうとした私の目からも涙があふれた。
「こんなからっぽの箱がふとしのわけはない!!」
 「戦争なんかに殺されてたまるか!!!!」
 「骨ひとつ、髪の毛一本なく、そんなわけのわからない死に方していいんですか!!!!!!」

 妻の絶叫がまだ耳のそこに残っている。
※名古屋の一地方である「大府市」の特産である「大根」。その副産物である「切り干し大根」とタクアンにまつわる実話を元にしたこのラジオドラマ。大上段に戦争と平和を語るのでなく、身近なあなたやあの人が知っている、体験した「戦争」とそのむなしい結果をこうしてラジオドラマにして伝え、語り継ごうとする脚本家の麻創けい子のひたむきな作品に感動した。