風前の灯火だった命が一つ助かった。
食欲もなく、水も飲まずが続き、命のともしびが消えそうになっていた人が入所している施設から一本の電話が入ったのは一昨日のことだった。
駆けつけると今にも消え入りそうに横になっていた。顔はもう蝋細工のようだった。
「○○(私のこと)が来ました」と叫ぶと、え?と一瞬理解できないような顔になり目で私を探すような顔になった。もう一度私の名前を告げると、病人が手をパチンと一つ叩いて笑った。
それは「あ!来た!」とでも言うようだった。
身寄りのないこの老人はこがれるように私を待っていたようだった。
「もう会えないかと思っていた」とつぶやく老人。
毎日会いに来ますというと、全部の歯がみえるぐらいの大きな口をあけて笑った。
付き添いの人がその変容ぶりに驚いていた。
「気持ちがつながっているのかしら?」
と老人がつぶやくので「魂がつながっているんですよ」と言うと
老人の頬から涙が流れた。
「わたし、こんなに幸せでいいのかしら」と涙ぐむ老人に施設の人は強く大きな声で
「幸せになっていいのですよ」と言った。
明日から毎日、会いにいくことになった。
私は、今日こそ生まれてきたかいがあったと思ったことはない。