飛翔

日々の随想です

トゥリーハウスと無人島


 「私に望むことある?」
 と夫に尋ねるといつも
 「健康でいてくれればいいよ」
 ときまった答えが返ってくる。
 昨日は「欲しいものある?」
 と尋ねると
 「我が家の庭にトゥリーハウスが欲しいね」
 と言い出した。
 我が家の庭には一本で森を作るケヤキがそびえている。そのケヤキの上に子供の時憧れた「トゥリーハウス」を建てたいというのだ。私も子供の頃自分だけの隠れ家が欲しいと思っていたので、
 「うんうん。いいわね。私もお手伝いするわ」
 というと
「でも台風が怖いね」
と言い出した。そう。当地は台風の通り道なのでいつも風がふくと恐ろしくなる。
怖いといえば、いつも風が吹くと眠れないほど不安なものが我が家にはある。

伸ばすと上空30メートルにもなる無線のタワーがそれである。伸縮自在のこのタワーはリモートコントロールで9メートルから30メートルまで伸びたり縮んだりする。
このタワーには幅14メートルという巨大なアマチュア無線のアンテナがついている。

このアンテナもリモートコントロールで360度旋回する。全世界に向けて電波の送受信が出来る。普段はもっと高いタワーでもっと大きなアンテナが欲しいとおもうのだが、ひとたび風が吹き出すともっと小さなアンテナにすればよかったと後悔するのだ。
 私が今一番欲しいものは無人島である。上の写真ほどの無人島が一つ欲しいのだ。狭い日本で、アマチュア無線をやると電波障害が生じやすい。巨大なアンテナやタワーを建立するには近隣の目が怖い。
 また夏の今頃、テレビの受信状態が悪くなったり、受信画像が乱れたりする。それはスポラディックE層の発生によるものだ。
 スポラディックE層は春から夏ごろにかけて、主に昼間に、上空約100km付近に局地的に発生する電離層である。
 スポラディックE層と呼ばれる特殊な電離層が発生すると、通常は電離層を通り抜けるVHF電波が、E層により反射されるようになる。このため、中国など周辺諸国のテレビやFMラジオ電波が、スポラディックE層で反射して、日本へも強く受信され、テレビの1-3チャンネルやFMラジオ放送に混信による画像や音声の乱れが生じることがある。
 アマチュア無線ではこのEスポ現象を利用して、普段届かないような、聞こえないような、交信できないような地域と交信が可能になる。したがってこの時期を利用してわずか1Wの電力でも長距離の地域との交信を楽しみにしている人が多い。
 しかし、アマチュア無線局以外の人にはこの現象の発生がわからないため、テレビの受信が悪くなったり、画像が一時的に悪くなると、その原因をアマチュア無線局のせいだと誤解する人がいる。
 特に目立つタワーや、アンテナがあるアマチュア無線局などは目の敵にされる。無線局のせいではないのに、巨悪の根源はアマチュア無線局だと曲解してしまうからだ。
 最近ではテレビでこの誤解を解くため、スポラディックE層の発生のため、画像が乱れましたとテロップを流してくれるので、誤解は少なくなってきた。
 またアマチュア無線局の中でも、海外交信を楽しむ人にとってもこの現象はありがたくない。
 なぜなら、ヨーロッパやその他の海外との交信をこのスポラディックE層を楽しむ国内の交信でブロックされてしまうからだ。
 たとえば、イタリアの局やフランスの局とサッカーのことで会話が弾んでいる途中、突然、国内の局にブロックされてしまうのは尻切れトンボの会話となってつまらないことおびただしい。
 夏のこの時期はスポラディックE層の発生を知らない人たちの冷たい目との戦いでもある。
 この悩みをなくすためにも、無人島をひとつ買い占めたいと思っているのだ。
 100メートルぐらいのタワーに20メートルぐらいのアンテナをつけてガンガン無線をやりたいと夫に言うとあきれた顔をされる。
 私のばかげた夢よりも、夫の少年のような夢の実現のほうがはるかに楽しそうだ。
 いつか二人でトゥリーハウスを作って木の上でリスと一緒にくるみケーキでお茶したいものだ。