飛翔

日々の随想です

梅鉢

 
もうすぐ亡き母の誕生日。母の忘れ形見にダイヤの指輪がある。それは母の父が、母が嫁に行くとき自分でデザインして特注した指輪だ。
梅の咲く頃に生まれた母にふさわしく梅の花をプラチナでデザインしたもので、真ん中にダイヤがはめこまれた逸品だ。デザインがあまりにも素晴らしいので譲ってくれと云うひとが随分居たものだ。
梅の花は小さくて地味であるけれど気品に満ちた香りを放って美しい。母も梅の花のように慎ましく美しい人だった。
 梅の花を詠んだ岡本かの子の歌を思い出す。
月よみの照りあきらけき地(つち)のうへ紅梅の影とがりて黒し岡本かの子
「紅梅の影とがりて黒し」の鋭い写実が素晴らしい。内面を投影している様は深い。

明治の俳人に盆栽の梅を詠った人がいた。紹介しよう。
鉢に咲く梅一尺の老木かな (鳴雪)
これは盆栽の梅を詠じたもので、普通に老い木と言えば1メートルはあるが、盆栽の梅はわずか一尺。30cmばかりの大きさである。しかし、老い木なのである。そのわずか一尺の老い木の趣に感じ入った作者。しかも、このわずか一尺の老い木には花が咲いている。
 宇宙の縮尺のような盆栽の世界に咲く老い木の梅。淡々としていて趣がある。
 今日は雨だったが、とても暖かい日となった。 
 昔の人が言うように「梅一輪 一輪ほどのあたたかさ」
 日に日に春に近づくときめきを味わうことにしよう。