飛翔

日々の随想です

好文木


 今日から二月。如月。 
 梅の季節になった。 梅は桜のようにはなやかではない。けれどその気品に満ちた風情と馥郁(ふくいく)とした香りがあたりを静謐にする。
  寒さが残るなか、昔の人はこうもうたっている。
 ・梅一輪 一輪ほどのあたたかさ

  芭蕉の句、

 ・梅が香に 追ひもどさるる 寒さかな

 こうして春は三寒四温をくりかえしながら花に暦を教えるようにやってくる。

そう言えば梅の異名を知っている人は少ないのではなかろうか。
梅の異名を「好文木」と言う。
 この言葉はその昔、中国の皇帝が 『文を好めば梅開き、学を廃すれば 梅閉づる』と云ったことからつけられた。

茶の道ではこの季節、梅の透かし模様のある棚を出してお茶を点てる。その名も「好文棚」と言う。

この「好文棚」は表千家 十一代 碌々斎好み。中棚の上に、梅の花の透かしがあるのが特徴。

からしゅんしゅんと湯がたぎる音(松風と呼ばれる)を聞きながら一服の茶を嗜(たしな)むとき、俗世界をすっかり忘れ、自分さえも忘れる瞬間だ。
茶室にわずかに差し込む日の光が梅の透かし模様に陰をつくり、赤のすり漆が鈍い光沢を放つ。
つくばいの根方に植えてある我が家の紅梅はまだ咲いていない。
日溜まりにたゆたう午後が静かに過ぎようとしている・・・