飛翔

日々の随想です

野鳥と共に (野鳥記コレクション)

野鳥と共に (野鳥記コレクション)

野鳥と共に (野鳥記コレクション)

すずめの鳴き声でその喜怒哀楽を知ることが出来るってご存じでしたか?またウグイスの鳴き声は3種類あり、ヒバリの鳴き分け方、また「てっぺんはげたか?」とか「原稿書けたか?」などと鳴く鳥の正体を知ることができたら何と楽しいことでしょう。
そんな話が満載の本が本書です。

歌人・野鳥研究家として知られる中西悟堂の名著「野鳥記コレクション」全三巻から本書「野鳥と共に」は、悟堂がこよなく愛した野鳥と自然の営みを親しみやすい言葉で書き表したもの。

本書の 野鳥の観察?「野鳥の歌と人の聞きなし」に寄れば:
鳥の鳴き声を言葉として伝承したものを「聞きなし」と言う。「聞きならし」が詰まって「聞きなし」となったもの。
例えばホトトギスの場合は「特許許可局」とか「テッペンカケタカ」のように聞こえる。
物書きが聞くと「原稿書けたか」に聞こえ、頭がはげた人が聞くと「テッペンハゲタカ」と聞こえるというのはジョークにしても面白い。
メジロは「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」と鳴くといい、キジ鳩は「人取って食う食う」と鳴くという。
ホオジロの歌の「聞きなし」は「一筆啓上仕候」が一般的。
これが賭博が盛んな「駿河遠江三河」地方だと「てっぺん一六、二朱負けた」と聞こえ、山形地方だと「丁稚びんつけ、いつ付けた。いつも付けんが、今日付けた」と聞こえるそう。
これは貧しかった東北地方で子供達が丁稚奉公に出され、大店(おおだな)の小僧ともなれば、頭髪にビンツケ油をつけ、角帯をしめ、前垂れをかける。それが丁稚小僧の姿であったというから「聞きなし」も土地柄、暮らし方、時代を反映していて面白い。

また童話作家 岸辺福雄老(上野動物園の象「花子」の名付け親)は軽井沢の別荘で、早朝、鳥が「爺いや、爺いや、起きい」と起こしに来るという。
著者が察するにそれは「センダイムシクイ」という鳥で「チヨチヨビーイ」と鳴いているのを「爺や爺や起きい」と聞こえるのだろうと推察。
これが長野県に行くと違って聞こえるからこれまた不思議。
長野県の人には「焼酎一パイ、グイー」と聞こえるという。
また仙台では「鶴千代君」と聞こえるというから面白い。
つまり伽羅先代萩。鶴千代君には飯を食わせぬというあれである。
そこでこの鳥を仙台では「仙台虫食い」なのだと主張するらしいので、こじつけもここまでくれば歴史物語的である。
そのほか、コジュケイは「ちょっと来い、ちょっと来い」と聞こえるとなると、交番の前でぎくっとする人がいるかもしれない。

このように本書は野鳥の声を言葉に写す面白さ、楽しさ、独特の愉快な日本語表記に満ちていて、歌人でもある中西悟堂氏の真骨頂を伝える文章にみちあふれていて楽しい。
一服の涼を求めて山道を歩くとき、野鳥のさえずりに耳傾けて「聞きなし」を記してみるのも趣があるというもの。
憂き世のせちがらさを忘れ、本書をひもとき、中西悟堂氏がこよなく愛した野鳥と自然を味わってみてはいかがでしょうか。