飛翔

日々の随想です

「母の日」に想う



 わが家の庭には想い出深い木が一本ある。
 木瓜(ボケ)の木だ。
花は白地にほのかな淡い赤がにじむように咲いて美しい。
 入院している母に庭の木瓜(ボケ)の花を一枝とって持っていった。
花瓶にいけるとそこだけがあっというまにわが家の庭と化した。
「家に帰ったような気がするわ」と母は喜んだ。
 髪をきちんと整えてほほえんでいた母は、病室にはふつりあいな程美しかった。
「爪を切ってちょうだい」と母が言った。
爪切りはどこを捜してもなかった。
買いに行けば良かったのにそうしなかった。
「今度ね」と私は愚かにも答えた。
その「今度ね」はもう二度とこなかったのに・・・
木瓜の花を見るたびにいつもにじんで見えなくなる