歌人である松村由利子はかつて新聞記者として働くシングルマザーだった。
歌集『薄荷色の朝に』のこんな歌がある。
・三歳の「世界で一番大好き」をわが盾として職場に向かえ
・愛それは閉まる間際の保育所へ腕を広げて駆け出すこころ
一首目は職場に赴くお母さんが玄関を出るときの鬨(とき)の声のよう
それも三歳の“「世界で一番大好き」を盾として”がほほえましく、世界で最強の「盾」を持つものの誇らしくも勇ましい気持ちが背中を押して「いざ出陣!」と鬨(とき)の声をあげる。
そして二首目。
やっと労働を終え、一番最後のお迎えとなってしまった母が一目散(いちもくさん)で子どもが待つ保育所へ駆け寄るこころはまさに「愛」。
松村さんの歌は同じような思いで胸を痛くした「働くお母さん」の声がそこには詠われていて深い共感をおぼえる。
また同じ思いを経験していなくともその胸中はまっすぐに伝わる。
先日ベビーシッターにより預けた子供を死なせてしまう事件があった。
預ける保育所の数が少なく待機児童数が多い現状を見るに付け、この事件が抱えるものは多いように思う。
3月は卒業・卒園の時期だ。
働くお母さんである私の知人は子供を三人抱えている。
彼女の子供たちが卒業・卒園をした。子供を預けて働くつらさを思い返すと感慨深いものがこみ上げてくるようだ。
子供が熱を出しても、離れるのが嫌だと泣き叫ばれようと、振り払って職場に行く母。
子供を預けて働きに行くのもつらいけれど、預け先がなければ働くことができず死活問題にもなる。
少子化を止めるには様々な事柄をクリアする必要がある。
安心して子どもを産み、ゆとりをもって健やかに育てるための家庭や地域の環境づくり、待機児童をなくす体制づくり、保育施設の拡充と、女性の働く環境問題などなど。
卒園式を迎えた子供たちとその母親に心より「おめでとう」と言いたい。
子育ては地域も国もこぞってしてこそ、未来はひらけるというものだ。