とっておきの英語―第一線同時通訳者の秘蔵話 | |
村松 増美 | |
毎日新聞社 |
そこで今日は米原万理さんより少し先輩で、同時通訳の第一人者である村松増美氏の著書から歴史をいろどった名セリフや世界のリーダーたちの卓越したユーモアを紹介したいと思います。
本書は第一線の同時通訳者として歴代のアメリカ大統領や多くの国際会議で活躍してきた著者が、英語自体を勉強の最終目標とせず、英語を通じてユーモアという「英語の中の隠し味」を賞味すべく書かれたものです。したがって、同時通訳のノウハウや英語の勉強法を期待する人向きの本ではありません。
(「神々もジョークを愛(め)で給う」と言ったのはギリシャの哲学者プラトンだった)。
神でさえもジョークを愛でるのであるから、煩悩だらけの人間には笑いは生きる上でのビタミン愛かもしれません。
では、ユーモアやジョークとは何でしょう?
本書の中でアイゼンハワー大統領は「ユーモア感覚は、人とつきあい、仕事をちゃんとやりとげるための、指導者(リーダーシップ)の技術の一部だ」と言っています。
またリンカーン大統領は「私のささやかなジョークでもなければ、(南北)戦争の重荷に私は耐えられなかったろう」との言葉を残しています。
緊張や恐怖もたった一言のジョークで気持ちがほぐれ、場がやわらぐのだからジョークは魔法の杖である。
今やどんなスピーチでもどこかに一つユーモアを交えるのが成功の秘訣と言われています。
ここで愉快なジョークを:
天国で5人のインテリが、人生で最も大切なものは何か議論をした。
モーゼは自分の頭をさし、「一番大切なのはここだ」と理性を強調。
するとイエス・キリストが胸をさし、いやここだと言いました。ハートつまり愛を強調。
次にマルクスが一番大切なのはそれより下だと胃袋をさした。食べ物。つまり物質主義。
そこにフロイトが来て「一番大切なのはそれよりまだ下だ」と言いました。
人間の行動・心理のすべてを性で説明した人です。そこへ現れたのがアインシュタイン。
「みんな、違うね。すべては相対性だよ」
さて、ユーモアの中でも「自分をくさすユーモア」はユーモアの中でも上質なものとされているという。
事故で右ひざの下で足を切断した英国人男性の話は本書の中でもひときわ余韻の残るものである。
彼は自分自身を「ブリキの足をつけた小太りの中年男」と笑いとばし、「私に足を返してくれると言ってもだめですよ。それは自分を小さくしてしまいますから」「障害があってもかまいません。実際には少ないことは多いことなのです」。
つまり足は一本減ったが(less)代わって多くの冒険を通じて偉大な人生を切り拓いたから(つまりmore)だと評した。
“Less is more”(少ないことは多いことです)
何と勇気を与えられる言葉でしょう!
こんな風に本書は英語好きにも、英語に縁がない人にもどこかでちょっと使ってみたい表現やジョークに満ちていて、「負け犬」だとか「勝ち組」だとか、とかく、ささくれだった価値観から鎧も兜も脱いでほっこりユーモアに包まれたくなる一冊です。
(議論に勝って友を失う愚をおかさないためにも、相手のあげた拳を下げさせ、武器を下げさせるユーモア)を持ちたいものです。