飛翔

日々の随想です

本の国の王様

本の国の王様

本の国の王様

神保町の古書店主がある日突然この町を「独立国」とし、国王宣言したとしたら?
「何を馬鹿なことを」と一笑にふすのがせきのやまだろう。
この一笑にふされるようなことを実現した人がいる。
本書は世界ではじめて「古書の町」をつくり、独立国を宣言して王様になったリチャード・ブース氏の自伝である。

英国の小さな町ヘイ・オン・ワイはイングランドウェールズの境界付近にある。
この付近は英国中でもっとも城が多い地域として知られている。
今にも崩れそうな塔と砦がある城を住みかとするブース氏はここに古書店を開店した。
ある日ブース氏がサンデーミラーの記者と話しているとき「ヘイはイギリスから独立する」と口走ったことから端を発し英国中の新聞社とテレビ局から取材が来てこの「古書の町」は世界中に知られることとなった。
日本からは「兼高かおる」が取材にやってきて「ケネディ大統領やサウジアラビアの国王もインタビューしましたけど、あなたは私がこれまでに会った中で一番面白い方だわ」と言わしめたとか。

ブース氏は子供の頃父に連れられ古書店に行ったのをきっかけとして古書店通いが好きになった。
人の何倍も本を読む読書好きの少年はやがてオックスフォードを卒業。
それから古本収集、本探しの旅は英国中をはじめとし、オーストラリア、アメリカ、カナダと続く。
ありとあらゆる場所をトラックで走り回り、手当たりしだい集めた本はウェールズの小さな町にかつてみたことがないほど大量となった。その様子を新聞が取り上げたおかげでウェールズ中から本好きがヘイに集まってくるようになった。それをきっかけに村に活気が生まれ、古書店を開く人が増えてきた。こうして「古書の町」が次第に出来上がってきたのだった。

その間の古書業界の内情、仕入れの様子など本にまつわる話が満載で本好きにはページを繰るのももどかしいほど。「カタログを見れば、まともな書店かどうか一目瞭然」という老店主の言葉をブース氏は生涯忘れないという。

また農村文化の危機を憂う著者は開発行政にも怒りのほこをおさめることができず反乱をおこす。

『「古書の町」は資本主義社会に生きる金銭欲と名誉欲に駆られた若者が作る町ではない』『「古書の町」を支えるのは、生まれ育った小さな町の行く末を憂い、隣人を気遣いながら、田舎で商売を続けることに幸せを感じる中年たちだ』
『「古書の町」はかならずしも商業的な成功をめざさなくてよいと考えている。儲けにならない活動にも立派な意味がある』というブース氏の地方再生への熱い想いは古書を愛する気持ちと重なる。

反骨精神とユーモアの精神、ちょっとはみだし加減の人柄がにじむ本書を読みながら「古書の町」へ想いを馳せてみるのも悪くはなかろう。

一度は行ってみたい「古書の町」ヘイ・オン・ワイ