日々、きものに割烹着 | |
猪谷 千香 | |
筑摩書房 |
お茶の稽古に、謡曲、仕舞いの稽古にはウールの着物や紬の着物を着て行ったものだ。
紬の着物はおろしたてはごわごわと固かったのが、着こんで行くにしたがって体になじんでいくのが心地よかった。
最近では着物をほとんど着ない。しかし、着たいという気持ちにさせたのが本書である。
着物を着た女性の写真が多く、また珍しい柄の昔の着物の写真に目が奪われる。
本書は着物好き、着道楽だった著者の曾祖母以来受け継いだきものまわりのあれこれを綴った目にも楽しい着物随筆である。
まずは表紙を飾る割烹着を着た老女二人の気品に満ちた美しさ、やわらかな表情、たおやかな笑顔に吸い寄せられた。
着物姿の美女の表紙は良く見るが、割烹着でこれだけ目を引く表紙は珍しい。
題字がまた憎いばかりに良い。肉筆を見るような字に、割烹着姿のにこやかな老女二人。
巻頭から8ページを使って着物の柄、着物姿の写真が飾っている。
1ページ目の写真は美しい図柄の着物がタンスからこぼれるようにでていて目を引く。同じページの下にはダリアが咲いているのかと思うような銘仙(めいせん)のモダンな図柄の着物地。北欧のテキスタイルかと間違えそうな「+」の模様が続く柄の写真。
2ページ目の写真は驚くなかれ昭和32年日本の観測隊が南極に到着した頃作られたペンギンの模様。今上天皇がまだ皇太子の頃の「テニスコートの恋」をヒントにつくられた王冠とテニスラケットの図柄の銘仙の着物の写真がついている。
3ページ目も4ページ目も、これが着物の図柄かとびっくりするような超モダンな図柄ばかり。
次ページからは木馬亭の曲師、豊子師匠の粋にきこなした着物姿。表紙を飾る美人姉妹の着物姿などが続き、最初から楽しげで目が喜ぶページ作りがなされている。
目次を紹介すると:
第一章 フネさんにあこがれて(サザエさんのお母さん)
第二章 東京きもの
第三章 着道楽の遺伝子
第四章 きもの文学
あとがき
となっている。
本書の帯にはこう書いてある。
頑張るきものじゃなくって、サザエさんのフネさんのような肩の力が抜けた着こなし。真っ白な割烹着。縞、下駄、銘仙、木綿にウール。曾祖母以来受け継いだ、きものまわりのあれこれ。
まさにこの帯の文章の通り、表紙を飾る真っ白な割烹着姿の老女二人の写真が何よりもこの本の内容を言い表していて妙味。
読み終わって、また、さまざまな着物姿の写真を見終えて、「私も着物がきたい!」と思わず言ってしまい、箪笥にしまわれた着物を出してみた。よそいきでなく、普段着として着たくなる着物への郷愁と憧れをかきたてた本書をぜひみなさんにも読んでいただきたい。そして着物を着ましょうといいたくなった。