飛翔

日々の随想です

お姉さんは魔法使い


 
年の離れた従姉のお姉さんは美人で女優をしていた。
 売れない女優と云うのはいつも貧乏。お小遣いがたりなくなるとお昼時に父の会社に電話してお昼をご馳走になるのだった。ついでに家に来て泊まって行く。
 子供心にも美しくみえた従姉は憧れの的。従姉はお土産に必ず手作りのものをもってきた。それはいらなくなった菓子箱にきれいな布を貼ったものだったり、はぎれで縫ったポシェットだったり、海で拾った貝に糸を通したネックレスだったりした。魔法がかかったようにそれらは美しく見えた。
 お金がなかったので売っているものを買えなかっただけだったのかもしれないけれど、手作りのものは世の中に一つしかない素敵なもの。捨ててしまえばそれで終わりの菓子箱も綺麗な布を貼ると宝石箱に変身した。
 憧れのお姉さんがミュージカルに出るというので観に行った。
 楽屋へ行くと汚らしい格好のおばあさんが出てきた。それがお姉さんだと分かるまでに随分時間がかかった。わかったとたん、私は「わっ」と泣いてしまった。
 捨ててしまうような箱を宝石箱に変身させてしまうお姉さんは、おばあさんにも変身してしまう魔法使いだった。
 以来、私は手土産はなるべく手作りのものを持っていくようにしている。私にはまだ魔法の力が不足しているので素敵なものはできない。
 いつか手土産の包みをあけたとたん、ぱっと目が輝いて人を幸せにするようなものを作ってみたい。