飛翔

日々の随想です

被災地の子供たちにこんな絵本を

  著者の蜂飼 耳(はちかいみみ)さんは詩集「いまにもうるおっていく陣地」で第5回中原中也賞を受賞した詩人だ。
「ひとり暮しの のぞみさん」は物語絵本。
大野八生さんの絵でこれが素晴らしくこの絵本にマッチしていてほのぼの、ひたひた、心に染みて実に、実に良い。

ひとり暮らしののぞみさんの部屋には、からっぽの鳥かごが一つある。
ある日、その鳥かごがどんどん大きくなって部屋いっぱいのおおきさになってしまった。
そこへ大き目の小鳥と小さめの小鳥がやってくる。
そこからこのお話がはじまる。

のぞみさんと、2羽の小鳥たちの生活ぶりは、まるで寒い日に飲むあったかいココアのよう。
読みながら自然と顔がほころんでいる自分にきがつく。
ぽかぽか、にこにこ読み進めるうちに、急にぽっかりと心に穴があく。
大きめの小鳥が南の国へ渡っていってしまう。

のぞみさんの
「三から一をひいてニになった というのではなく一と一とをたして ニなのだ ということだった」と言う個所で私はどっと涙が出てきた。
母が亡くなった後のことを急に思い出したから。
そうだ、そうだ。ひいてニになったのでなく、一と一をたしてニにしたことが今の今になって気がついた。
心を寄り添いあって「ニ」になったのだった。

やがて小さめの小鳥まで去って行って「のぞみさん」は「三から二をひいて 一になった」。
でものぞみさんはこう思う。
「三から二をひいて 一になった ともいえるが、はじめから 一だった ともいえる」と。
でものぞみさんの「一」は今や空いっぱい、宇宙いっぱいの「一」であって、数なんかであらわしきれない大きな「一」となった。

けっしてひとりぽっちの「一」なんかじゃない。
遠くへ行ってしまっても決して「ひとりぽっち」ではない大きな「一」を残して行ったものは何か?

私を長い間さみしくつらく、苦しめてきた「喪失感」がこの絵本で変わった。
あたたかくゆったりと「一」を噛み締める。
そんな絵本にめぐりあえた。