飛翔

日々の随想です

翻訳の妙

我が家には聖書が三冊ある。
 一冊は『英和対照 中形新約聖書』(日本聖書協会) 昭和28年。
 二冊目は『聖書』新改訳 1996年(いのちのことば社
 三冊目は『The MESSAGE』EUGENE H PETERSON(NAVPRESS)
 私自身は特定の宗教をもたない。しかし、縁あって、英国では牧師さん一家にステイしていた。三冊目の聖書は英国を離れるとき牧師さんの奥さんが日々愛読していたご自身の聖書をいただいてきたものだ。ステイ先のすぐそばには英国国教会カンタベリー大聖堂があり、学校が引けてから毎日夕べのミサに参加していた。荘厳な雰囲気の中、歌われる聖歌を聴くためだ。牧師さん一家は決して私にキリスト教を押し付けることはなかった。
 昨日久しぶりにこの三冊を引っ張りだして比べながら読んだ。その箇所はマタイ伝10章29節を読むためだ。
 昨年ブログで書いた『ある小さなスズメの記録』クレア・キップス、梨木香歩訳(文藝春秋)の英語題名『Sold for Farthing』、と本文中に出てきたマタイ伝を調べようとしたからだ。
 『英和対照 中形新約聖書にはこうあった。
Are not Two sparrows sold for a penny? and not one of them shall fall on the ground without your Father:
二羽の雀は一銭にて売るにあらずや、しかるに汝らの父の許しなくば、その一羽も地に落つることなからん。
※farthing=pennyのこと。
4分の1ペニ−に価する英国旧青銅貨【名詞】 《主に英国で用いられる》
【可算名詞】 ファージング 《英国の小青銅貨; 1/4 penny; 1961 年廃止》.
[a farthing; 否定文に用いて] わずか,少し.(研究社 新英和中辞典から)
 『聖書』新改訳 1996年(いのちのことば社)にはこうあった、:
 二羽の雀は一アサリオン(最小単位の銅貨)で売っているでしょ。しかし、そんな雀の一羽でも、あなたがたの父のお許しなしには(父と無関係には)地に落ちることはありません。
 『The MESSAGE』EUGENE H PETERSON(NAVPRESS)にはこうあった。:
What's the price of a pet canary? Some loose change, right? And God cares what happens to it even more than you do.
 そして、梨木香歩さんは次のように訳している。:
「スズメは二羽まとめて一銭で売っているほどのものである。しかしそいうスズメの一羽ですら、主の許しなにしで、地に落ちることもかなわないではないか」
 同じ聖書の中の言葉でも、訳し方が微妙に違って興味深い。