熱々のピザを食べながらあの日のことを思い出した。
長い年月、塾経営と教師をしてきた。
卒業するとき、素敵なレストランでお別れ会をするのが恒例となった。
費用は全て私がもつとしたので生徒はみんなこの日を楽しみにしていた。
まだピザ店は田舎まで進出していなかった。
お別れ会でピザを頼んだ生徒の中で一人残したものがいた。
「先生、私お腹がいっぱいだから、家に持って帰ってもいいですか?」
と尋ねた。残ったピザは包んで帰った。
それから何年も経ったある日、生徒から手紙が届いた。
あのピザを残して持ち帰った生徒からだった。
長い手紙の中に、ピザの思い出があった。当時、個人商店を営んでいた彼女の家では弟や妹、祖母がいた。
家族みんなにピザを食べさせたいと思い、持ち帰ったとのこと。
この飽食の時代、ピザの皮の厚いところは残され残飯として捨てられていく。
そんな光景をみるにつけ、たった一きれのピザを家族に食べさせたいと思って持ち帰った彼女のけなげな胸の内がいとしくなる。