飛翔

日々の随想です

形見


  今日は「敬老の日
 秋晴れの爽やかな祝日である。
 朝晩涼しくなって秋物をクローゼットから出してきた。
 その中から一枚のニットのベストが出てきた。
 それは私が父に編んで贈ったものだ。

 手先が不器用で裁縫や編み物が苦手な私が、テレビの編み物番組を見て挑戦したものだった。
 題材は「ベスト」
 袖がある大物でないので、初心者の私でも編めそうだったので挑戦した。
 誰のものを編むか、迷った。
 大好きな母のためでなく、自分のためでなく、父のために編むことにした。
 コーヒーブラウンの毛糸でテキストとテレビの画像を見ながら編んだ。

 編み始めてまもなく父が病に倒れた。
 寒い冬はもうすぐやってくる。早く編み終えねばと焦った。

 お世辞にも上手とは言えないけれど、手編みの風合いがある「ヘチマ衿のベスト」が完成した。

 「背中と襟元が寒くて仕方がなかったけれど、これであたたかくなった」
 余命いくばくもない父の言葉に私はむせび泣いた。

 やせ細った父の襟元を温めた手編みのベストは、やがて父の形見として私の手にもどってきた。